一文物語365 2014年12月集

一文物語365 12月

一文物語

1

人になりたい狐は、人に化けて占いなど看板を立てて、実際に人と接して具体的な話を聞いて学んでいる。

2

シャボン玉が生まれて飛んだ分、世に生命を宿して、割れて消えた分、どこかで死を迎え、最後のシャボン玉が割れた時、シャボン玉遊びをしていた孫を面倒を見ていた老人がその場で息を引き取った。

3

この星が滅ぶことをいち早く知った大富豪は、買っていた星へとっとと移住して新たな星活を試みたが資金はつき、その星は滅び、かつていた星は大富豪が出て行ったことで滅びることはなかったのだった。

4

老父が、お金に困ったらここへ行けと、最後に言い残した山奥の別荘に行ってみると、昆虫や恐竜から美少女のフィギュアまでが所狭し並べられて、それらはもう鑑賞用ではなく、お金に変えられるのをただ待っていた。

5

海面に突っ込んで魚を捕まえる鳥を見た山の鳥が、雪下に人間が野菜を隠していたので、海の鳥を真似て雪に突っ込んだら、野菜を取るどころか抜け出せなくなってしまった。

6

青年が休日に都会を離れ、森で休息していると、小道をキツネとネコが仲良く並走して森の中へ消えていくのを見たが、ネコは本物なのかキツネが化けているのか、はたまたタヌキがキツネに化けているのか、考えているとあっという間に休息日が終わってしまい、騙されたような一日になってしまった。

7

万物の色や形を読み取って形にできる筆を手に入れた男は、毎日ひたすら老いていく自分を絵や石像にして最後を迎え、別の人間にその筆が手渡っても自分ばかりを創造し、世に役立って残すべきものに使われることはなかった。

8

観光客で賑わう廃城で、かつてこの城の住人だった亡き主が豊かに出っ張った腹で、腹踊りをして観光客を笑かそうと毎日、必死である。

9

採掘場に出入りするトラックのタイヤは、人の三倍はある大きさで、何としてでもダイエットしたい人たちがタイヤの中で、ハムスターの回し車のごとく頑張って走っている。

10

宇宙の最果てに到達した宇宙飛行士は、真っ暗な闇の壁に四角く開かれたドアを見つけ、死を覚悟して中に入ると、宇宙の最果てを中継しているテレビを興奮ぎみに見ていた家族のいる自宅の居間につながり、しかし、いくら声をかけても自分の存在に誰も気づいてくれない。

11

あかすりにはまっていた女性は、宝石のように磨かれて艶が増していくたびに、身体が小さくなっていった。

12

結婚適齢期に焦りを感じる女は、いかに男を見極めるか、ある方法をそそのかされ、銭湯で湯に溶け込んで男を見極めていたが、湯と同化していた時間が長すぎたためのぼせて何も覚えていなかった。

13

なんでも吸い取って水に流してスッキリさせてくれる巫女がいる部屋に入ると、便座を挟んで和やかに話をしたあと、便器に溜まった言霊の膿を巫女と手を重ねて水洗の取っ手を一緒にひねると、新しい水に流れかわり、心の中が洗浄されたようになる。

14

どんなに刃を向けられても受け止める愛があると、まな板は胸を張っている。

15

ぽっかりと空いたところに自分が写っていた写真を見ていた少年は、かれこれ五百年前に撮られた古い写真から、時代を超えた写真生命技術で、この世に生を受け直されたのだった。

16

にゃ~にゃ~、パォーン、と言い争う声がしていたが、しばらくすると、にゃ~、しか聞こえなくなった。

17

事故に巻き込まれて瀕死の状態で運ばれてきた若い女性は、ゆるゆるふわふわした性格で周囲からは頭の中はお花畑と言われていたらしく、割れた頭の中から花びらをまき散らして手術室に運び込まれた。

18

互いの言葉や文字もわからず、身振り手振りでも思いが伝わらず、喧嘩の一つもまともにできなかったが、唯一、関節をコキコキパキパキ鳴らすと意思疎通がとれ、二人は関節ラッパーとして広く知れ渡っていった。

19

壁一枚向こうの部屋で、何かを運び入れている音がして、気持ち床が傾いている感覚にとらわれ、金塊が積まれている想像しかできない。

20

若き細胞研究者を追い出した老人たちは、次にあんたを苦しめるのはわれわれだ、と自分の細胞たちが活動をやめ始めた。

21

日曜日の朝、毎朝通る道に面したアパートの部屋の窓に、赤い服と帽子がハンガーにかかっているのが見え、そろそろ彼が勤務の始まる時期かと思いつつ、我が子へのことも考えないとなぁ、長く白い息を吐き出し仕事のため駅に向かった。

22

夢の架け橋となった彼の背中の上を歩き、向こう岸へ辿りついて振り向くと橋はなく、深い岸壁の間を冷たい風が通り抜けていったことを夢と思いたかった。

23

将来、建築家になりたい少年は、ビルを建てる夢を見て、朝、目が覚めると、クリスマスの靴下の中に赤いレンガがひとつだけ入っていた。

24

生き残った鳥たちは、またビクビクして一年を過ごすことになった。

25

夜が明け、世界中で赤い衣装を脱ぎ捨てられていて、世の男たちは疲れきっていた。

26

小さくも広大な景色を飛行機の窓から眺めていると、パイロットが空中遊泳をしているのを見かけ、自動操縦にしているのだろうと特に不安にも思わなかったが、そのパイロットは風に煽られ、自分を制御できずどこかに流れて行ってしまった。

27

女性は、枯れ果てた湖のようにぽっかりと空いた心の穴をどうしようもなく眺めていると、まるで湖の向こう岸から土で枯れた湖を埋めるように、彼女の心の穴を紳士な想いで埋め立てながらやって来た彼と、穴を塞いだ場所で住まいを構え、二人は暮らした。

28

片寄った食生活をしてしまったかな、と女性は鏡に自分の体を写すと、顔は豚で体は牛のように錯覚して、このままでは飛べなくなると思い、羽を求めて鳥を狩りに出かけた。

29

部屋の汚れた窓を拭いたら、窓がお礼に外からとんでもない量の光を差し入れて、冬だというのにシャツ一枚で過ごせる部屋になった。

30

女の子は、溜まりに溜まったココロのゴミを捨てようと海に吐き出せば、波が沖へ持ち去ってくれると思っていたが、苦々しい思いだけが岸に押し戻され、もっと身も心も清めようと芯も凍る海に体を投げ入れたら、ただの願望というオモリだけになってしまい、岸から離れていってしまった。

31

年が明けてしまうのを嫌がる男は、時間から逃げて逃げて、しかし、海の上の日付変更境界線で、一人月夜の光を浴びせられ、追い詰められた。

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一文物語365の本

2014年12月の一文物語は、手製本「2014年集」に収録されています。

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