一文物語365 2013年11月集

一文物語365 11月

一文物語

1

庭の木の葉が色を変えて全部落ちてしまい、それを悲しんだ少女は、たくさんの黄色い傘を持って木に登り、傘を開いて枝に引っ掛け終わって少女は満足気に笑顔を見せたその時、突風にあおられ、傘ごと木が地面から抜けて飛んでいってしまった。

2

はめられたら使いものにならなくなるまで働かされる電球たちが、やる気をなくし、光を発してくれているのはいいが、特に天井の電球は緊張感を失っているせいか床に届くほど垂れ下がってしまっている。

3

公演で日々の生活を向上させるその話者は人々を魅了してやまないが、どこか胡散臭いと思っている自動改札に、その話者が正規の値段を払っているにもかかわらず、その魅力に騙されないと心の扉を開いてくれないので、話者は自分の本を一ページずつ自動改札に読み込ませている。

4

狩猟民族の少年が何度も狩りに失敗し、動くことをやめて足を地面に埋めて植物になることを決心し村から離れて行ったが、しばらくしたあと少年が枯れているのが発見された。

5

お宝が眠っていると、横穴を掘り続けたが結局届かず、男は真面目に仕事に就くと、縦穴を掘る工事現場で作業することになり、そこは横穴の少し先で、そこでマグマを見ることになった。

6

これから結婚を迎える女性が、幼い頃から肌身離さず持っていた想いだけを込めた空のビンの蓋を開けると、中から過去に吐き溜めていた暗黒面が無数のカラスとなって青い空へ飛んでいった。

7

花畑で出会った彼女は、くしゃみをするたびに口から花束が毎回違うアレンジで出てくる。

8

孤独を感じていた青年は小さな紙に独りの人物を描くと、何もない紙の中を自由に動きまわって世界を広げろと言うので、青年は紙を付け足しては新しい世界を描いたが、その場に座り続けて広がり続けるのは紙ばかりで、凝り固まった体を立ち上げ、人に会いに行こうと、紙の端に火を付けてその場をあとにした。

9

この国を守るための雌型巨大ロボットは、各地の侵略を防いできたが、その時、地方にある大仏に感謝でもされたのかその大仏に恋をしてしまい、ある非番の日、逢いに行ってしまった。

10

真夜中に目が覚めたのは、カンカンという音やモゾモゾと何かを這わす音が骨を伝って聞こえてくると、数日してそれは、どうやら奥歯の中からで、そこになにかが住処を築いているようだ。

11

横線の入ったものを見るとメモを取りたがる男は、人衆の中、Tシャツを着た青年の背中に謝り続けながら今日一日の歩数をメモした。

12

度胸だめしだと少女が、家畜が放牧されている野を囲う電流の走る鉄線に触れると、小さく悲鳴を上げて飛び退き、それを見て高笑いするもう一人にぶつかり、その子はそのまま顔面から倒れこみ高笑いは消え、糞まみれのその子の顔を見て少女は高笑った。

13

泳げない彼は、ワンタッチで一瞬にして空気が入ってできあがる救命ボートのボタンを押すと、何が起きたのかもわからないほど勢いよく開いたボートに、彼は海の沖に突き飛ばされてしまった。

14

憧れのあの人に抱かれたいと願い続けていた彼女は死んでしまい、周囲の人々はせめて気持ちだけでもと、棺の中で憧れの人の骨で彼女を抱くように並べた。

15

日々、仕事に追われて疲れていた青年は、夜、月明かりを頼りに気分転換の散歩に出かけた先で空から紐が垂れていたので引っぱってみると、月明かりが消え、帰る道が見えなくなってしまった。

16

教室で笑って楽しそうにお喋りをしている女子四人のうちの一人は、手に刃物を隠し持ち、どの顔からその作り笑いを消そうか品定めをして突然刃物を構えて立ち上がると、他の女子三人もそれぞれ隠し持っていた物を構えた。

17

そんなに飲んでいないのにコーヒーが減っていることに気づき、よく見てみると、カップの中でワニが口を開けていたので、コーヒーのお代わりをする前にこれでもかと砂糖をぶち込んでやったら、だらしなく舌が出っ放しになった。

18

彼は消耗品を作るのが得意で、指差した場所に瞬時に移動できる地球儀を開発したが、一度移動してしまうと、その地球儀は役に立たず、世界の至るところで電気スタンドのカバーに使われている。

19

人の労働を監視する人型ロボットがここのところ様子がおかしいと労働者が様子を見ていると、突然前かがみになり、腹部の扉が開くと大量の酒瓶が出てきて、コレハミンナデノモートオモッテ、と酒瓶を差し出して言い訳をしている。

20

新しい自分になりたいとお風呂につかってひと汗流し、自分を憂いて流してたまったような湯のせんを抜くと、まるで自分が魔法を使って竜巻を起こしたように全てが吸い込まれて、スッキリした気持ちで自分の顔を鏡で見たら、別人になっていてさらに悲しくなった。

21

いっきに果汁を絞り出すためにゾウを一本足で立たせると、果実は荷重に耐えきれず苦しみ潰れ、出てきて果汁は涙のごとくしょっぱかった。

22

ショッピングモール内で買い物を終えて駐車場に戻って来ると、隣に空を向いたロケット型宇宙船が停まっていて、今、血相を変えてモールから出て来る人がいて、何やらモール内が騒がしい。

23

任務中の忍者が潜入した敵の根城で見つかってしまい、火縄銃で発泡されたが、その忍者は何百羽もの烏に化けて銃弾をやり過ごすことに成功したはいいが、烏から元の姿に戻る術を知らない。

24

病弱だった少年が鋼鉄の強い身体になりたいと、抱いていた長年の夢が叶い、身体が鋼鉄になってからは全くその場から身動きがとれなくなってしまったが、戦地で仲間の支えもあり、防御壁として彼は活躍している。

25

突如、暴れ狂って町を壊していく女鬼が鈴に風鈴、鳴り物の音色を好きになったようで、人々は笛や太鼓を差しでし、いつしか女鬼の演奏で各方面の祭りは大いに盛り上がりを見せた。

26

新薬の開発に行き詰まった年いった女博士は、逆さまになって開発を進めたところ、若返る薬が出来上がり、真っ先に自分で試すと肌に潤いが戻り、外を歩けば男性だけでなく女性も振り返るほど目立つが、副作用の逆立ち歩きがどうしても治らない。

27

少女が暇つぶしに部屋の隅で、やっと滑らかに弾けるようになったギターを弾き始めると、飼い猫たちが耳をそば立てて聞いている一方で、少女の指と弦にはじかれて音を奏でてもらいたい音符たちが少女の前で、音色の邪魔にならないように静かに列を作っている。

28

そろそろ捕まえて欲しいな、告白ともプロポーズともとれる妻からの最初で最後の言葉をかけられて以降声を発した会話はないが、表情や相手を手で触れれば考えていることはわかるようになり、試してはいないが背中合わせで生活しても問題ないくらいの意思疎通ができる。

29

広い屋敷の友達の家でかくれんぼをして、一人の少女がいなくなり、全員で探しまわって、奥まったところのタンスの中で少女のハンカチが発見され、もういいよ、と殴り書きの紙が何枚もあった。

30

今日が誕生日の娘が干したシーツの影で昼寝をしていたので、シーツ越しに風船とプレゼントを持って声を掛けると娘は悲鳴を上げて逃げて行き、あとを追って事情を聞くと、目を開けた瞬間に真っ白なシーツに写っていた母親の影が風船と異様な四角い影のあるピエロに見えたと言う。

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