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水島一輝
小説家・ブロガー
当サイト『水輝亭』を運営している水島一輝(みずしー)です。

フリーランス/Webデザイナー・オンラインショップ運営経験/東京都在住

2018年末までの5年半、毎日一つ、一行だけで完結する一文物語を作り続けていました。
現在、当サイトでファンタジー小説を連載しています。

想像力が人生を豊かにするがモットー!
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第4話 白い線と平均の決意

1

 夜の空気は、ひんやりしていた。
 家の前のベンチに俺は腰掛けると、ファムが俺の膝の上に降りた。
 夕食を終えて部屋から出てきた。レナに気を使われ、レナの変な目線を感じすぎて、ちょっと一人になりたくなった。

 そういえば、夜の外に出るは初めてだった。
 夜空には、星々が輝いていた。

 俺は、元の世界で、こんなキレイな夜空を見たことはなかった。
 帰宅時間はいつも深夜だったが、頭の上に夜空があることなんて気もしなかった。むしろ、考える余裕はなかった。

 ――そう考えると、今はとても幸せなんじゃないか?

 いや、俺はそもそもそ幸せを感じていい存在のだろうか、とすぐに頭の中で言葉が反芻する。しかも他人の体に入り込んでしまっているのに……。

「俺は、どうしたらいいんだ」

 いっそのこと、エヴァンの記憶が戻ってくれれば……そうすれば、俺の意識は消えてくれるのかもしれない……。

 ――そうしたら、俺は本当に死ぬ……のか。

 また空を見上げた。

 ――ない。

 昼間にいつも見えていた空に伸びる白い線がなかった。夜だから、消えて見えないのかもしれない。
 空を広く見渡すと、木々のてっぺんに隠れるようにして、白く輝く線が伸びていた。
 昼間の位置より下がっていたのだ。

 ――当然か。星は回っているんだから。

「部屋にいないと思ったら、こんなところにいたの?」

 カーラが玄関の木戸を開けてやってきた。

「あ、はい。ちょっと風に当りたくて……」

「ふふ」

 カーラは微笑んで、俺の隣に座った。
 ファムが顔を上げ、カーラだとわかると、また首を元の位置に戻して目をつぶった。

「何か考えごと?」

 夜の静寂が聞こえて少し経ってから、カーラが聞いてきた。

「あ、いえ、まぁ……」

「何? 遠慮なく聞いて」

 カーラが顔を向け、さらに顔を近づけてきた。
 俺は、うっと顔を引いて、視線を林へ向けた。
 林の木々で見え隠れている白い線が目に入った。

「あ、あの、白い線はなんですか?」

 俺は林のてっぺんに向かって指差した。

「あー、あれはスロボローよ」

「スロボ……」

「スロボロー」

「スロボロー……」

 俺はゆっくり言い終えた。

「そう。あれはどこまでも続いているって言われてるの。この星をぐるっと一周しているみたい」

「星を?」

「ねぇ、あの白いものって、なんだと思う?」

「えっ?」

 俺は、もう一度白い線を見つめた。
 目を凝らしたところで、それが何なのかはっきり見えるわけではない。
 元の世界なら飛行機雲とか答えてもいいんだろうけど、ここには飛行機はないだろう。

「流れない煙?」

 ――そんなはずはない。

「近いかもしれない」

「えっ?」

「あれは、死者の魂」

「魂?」

「そう。人やドラゴン、植物とかのね」

 ――そんなこと、あり得るわけがない。

 元の世界でさえ、魂という概念はあっても、それが形に見えたりするとはない。

「そんなことあり得ないって思ったでしょ」

「え、あ、はい……」

 思ったことが表情に出てしまっていたようだ。

「私もそう思う」

「えっ?」

「だって、誰もあれを近くで誰も見たことがないの。魂が並んで、星を一周することで、また新しい生命に宿るって言われている伝説」

「伝説ですか……」

「子供の頃、読んだ絵本にあったの。伝説を子供向けに描いたお話。主人を亡くしたドラゴンがいて、そのドラゴンは主人の魂を追いかけて空をも飛び越えて行っちゃうの。絵本のタイトルは、なんて言ったっけ……」

 カーラは、しみじみ過去を振り返るように話した。

「その絵本はないんですか?」

 俺が聞いた。

「子供の時だったし、魔物から逃げたりもしていたから、当時の物は残っていないわ」

「そのドラゴンは、魂を追いかけて行った後、どうなったんですか?」

 カーラは、んー、と上を見上げて思い出そうとしている。

「確か、主人の魂と星を一周して、新しく魂を宿した人と一緒に暮らした……だったかしら。んー」

 ――きっと、それはハッピーエンドのパターンだろう。

 しかし、カーラは首をかしげ、目をつむったまま、記憶を探っている。

「魂を追いかけたまま別の星に飛んで行ってしまった、だったかな……。あれ? 流れ星に当たって死んじゃう? 魔王の手下になっただったかしら……」

 それらは、カーラの思いつきなのか、尾ひれがついてしまったものなのかはわからない。

「あっ、ふふふ」

 急にカーラが含みを持って静かに笑った。

「どうかしました?」

「ちょっと思い出しちゃって」

 カーラが俺を見つめた。
 俺は、近距離で異性に見つめられて少しドキッとした。仕事のことで女性と向き合うことは平気だが、仕事と関係ないことで見つめ合うのは苦手だ。
 何日も生活をともにしていてもだ。

 俺は、さっと視線をそらす。

「エヴァンが村を出て行く時に言ってたことを……」

 カーラはすぐには続きを話さなかった。じっくり思い返している様子だった。
 俺は、静かに待った。
 辺りは静寂に包まれて、夜の空気の声が聞こえてくるようだった。

「エヴァンは、魔王を倒したら、魔王の魔力の影響で死んでしまった人を生き返すって言ってたの」

「生き返すって――そんな魔法みたいなことができるんですか?」

 俺が聞き返すと、カーラは首を横に振った。

「そうじゃないの。スロボローまで飛んでいける伝説のドラゴンを見つけて、死んだ魂を連れ戻すって言っていたの」

「それも絵本の話の中に?」

「絵本にお話にあったどうかは、今になっては思い出せないけど、エヴァンがそう言っていたのは覚えてる」

「魔王を倒した私は――あ、いや、エヴァンは、魔王に殺された人々を蘇らせたと?」

「まさか、そんなことあるわけない。もし、エヴァンが言っていたことが起これば、私のお父さんやあなたやレナちゃんの両親も蘇っているもの」

「そ、そうですね……」

「魂なんてつかめるかどうかもわからなのにね。ま、子供の発想よね、ふふふ」

 カーラは、微笑んだ表情を見せてきた。

 ――エヴァンはそう言っていたのか。

 何度、頭の中で意識を巡らせても、そういった記憶はない。
 エヴァン・サンダーボルト・クリストフは、人々を蘇らせることはできなかったが、本当に魔王を倒してしまった。
 もし、死んだ者たちを生き返らせることが本当にできていたとしたら、この世界はまた違ったものになっていた――。

 ――平均は、エヴァンに転生していなかったかもしれない。

 そこまで考えて、頭の中に衝撃が走るような考えが浮かんだ。

 ――平均の魂がエヴァンの中に入り込んでいるなら、本当のエヴァンの魂はどこに。

 自分でそう思って、すぐに白い線のスロボローを見つめた。

 ――すでにあの白い線の一部に。

 それでは、もうエヴァンの記憶が戻る戻らないの話ではなくなってしまう。

 ――そもそも、魂がどうのこうのなんて、所詮絵本の話だろ。

2

「……エヴァン……」

「はい」

 呼ばれた俺は、思考を断ち切り、カーラに振り向いた。
 カーラの目元から涙がこぼれ落ちていた。

 ――えっ、なんでこのタイミングで泣いているっ!
 ――ど、どうしたら、なんて声をかければっ!

「え、あ、どう、その、か、カーラさん……」

 俺は慌てふためきながら、両腕をクモのようにわしゃわしゃ動かすだけ動かすだけで何もできなかった。
 カーラの肩に手を置いてやるくらいできたらと思えたが、できなかった。
 抱きしめることなど、当然できるわけがない。

 女性を抱きしめることなんて、そんな勇気はない……したいけど。

「あ、ご、ごめんね。子供の頃のこと思い出したら、急に涙が出てきちゃって」

 カーラは手で涙をぬぐって、なんとか笑顔をとりつくろうとしてくれた。

 エヴァンは、魔王を倒すために村を出て以降、当然村に帰ってくることはなく、カーラと会ってはいない。
 ついに魔王を倒して戻ってきたら、当の本人は意識を失った状態だ。
 カーラは、エヴァンがいつか目が覚めることを信じ続けて、毎日毎日、様子を気にかけていたのは容易に想像できる。
 そして、意識を戻したと思ったら、エヴァンの記憶はなく、中身はこの俺、平均という悲劇のような話。
 カーラは、子供の頃にエヴァンと別れたっきり、本当のエヴァンとは話ができていない。
 悲しくならないわけがない。

 ――こんな麗かな女性を泣かすとは、罪な男だ。
 ――エヴァン・サンダーボルト・クリストフ。
 ――俺も。

 ――女性経験に疎いとはいえ、涙を流して悲しんでいるくらいわかる。

 俺は、決意した。

 ――よし、エヴァンの記憶を取り戻そう。カーラさんのために。

 どうやって記憶を取り戻すか、現時点で方法は思いつかない。
 でも、ずっとじっとしていてもこの状況は変わらない。できそうなことをやっていく。

 やっと自分がやりたいことが見つかった。

 もしかしたら、記憶を呼び覚ます魔法とか、不思議な木の実とかあるかもしれない。
 魔王がいて、ドラゴンもいる世界。きっと、何か方法がある気がする。

「エヴァン? どうしたの?」

「え?」

「どうしたの? 急に立ち上がって? またドラゴンが現れたの?」

「え、あ、いや、その……」

 俺は、決意と同時に、勢い余ってベンチから立ち上がってしまっていたようだ。
 エヴァンの記憶を取り戻すなどと言えるはずもなく、何か言い訳をしようと目をキョロキョロとさせる。

 夜空に一瞬、鳥のような影が見えた。
 もう一度見る。
 夜空をぐんぐんと真上に登っていく羽を広げた影。
 そのまま空を突き抜けて行ってしまいそうだった。

「あ、あれは?」

 俺は、指差した。

「何?」

 すぐにカーラも俺が指差す方を見る。

「鳥?」

「ドラゴンのようね」

 カーラが言った。昨日、届け物をしにきた飛竜のようにも見えた。

「なんでこんな夜に……ワーカードラゴンが逃げてきたのかしら?」

 それを聞いた俺の心拍数が、急激に上がる。
 また村を襲ってくるんじゃないかと不安になった。

 ドラゴンは、まっすぐ飛んでいたと思うと、直角に曲がって方向を変えた。
 アクロバット飛行でもするかのように、体を回転させてクルクルと飛んでいく。
 急降下したり、ジグザグに進んだりと、普通ではない飛び方をしている。

「誰かが乗っているみたいね」

 カーラも同じことを考えていたようだ。
 人が操っているなら、きっとできなくはない動きなのだろう。
 そのドラゴンは、すぐに視界から見えないところへ飛び去って、夜空に現れることはなかった。

「行っちゃったみたいね」

「そ、そうですね」

 俺は、ほっとした。
 その一方で、ドラゴンに乗りたいと思った。
 さっき見たドラゴンのように自由自在に操って、空高くを飛んでみたくなった。

 ――空を飛ぶドラゴンに乗れれば、遠くまでも行ける。

 この世界を見て回れると思えた。

 ――この体で、エヴァンがたどった道を進めば、もしかしたら記憶を呼び覚ますきっかけがあるかもしれない。

 俺の心の中に、小さな希望のような光が灯った瞬間だった。

 ククー

 ファムが目の前を飛んでいる。

 ――ファムが大きくなれば……そんな急には育たないか。

 ワーカードラゴンがいるなら、空飛ぶドラゴンを貸してくれる人もきっといるだろう。
 町に行ったら、聞いてみよう。
 ドラゴンを借りることができたら、旅に出てみたい。

 そう思ったら、心の中が急に温かくなった。
 急にワクワクする気持ちがあふれてきた。
 この世界はどんな世界なのか、エヴァンがたどった道は……。
 想像が想像を呼び、どんどん温かい気持ちが増えていく。

 いつかは、大きくなったファムの背中に乗って、空も飛んでみたい。

 それは、とても懐かしい感じがして、いつぶりなのか記憶をめぐらせる。
 社会人の時にはなかった。
 学生時代よりももっと前、子供の頃、まだ家でペットを飼っていた時と同じ感覚であることを思い出した。
 笑顔の自分の顔が、思い浮かんだ。そして、エヴァンの顔と重なる。

 ――エヴァン・サンダーボルト・クリストフ、君はどんな人だったんだ。

「エヴァン、そろそろ部屋に戻って、寝ましょう。明日は朝早いけど、よろしくね」

「あ、はい」

 家の中へ入っていくカーラの後ろについていく。

 ――どこまでできるかわからないけど、カーラさんのためにも、記憶を取り戻そう。

 明日は、その一歩になる。

 町へ行く。

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