一文物語弐天零[2.006]水無月
一文物語2.0 2020年6月
1
大掃除で出てきた呪われているかのような不気味な人形を不用品とともに整理している間に、いつの間にか飼い猫が家を抜け出してしまい、六日後、無事猫は帰ってきたが、処分したはずの不気味な人形をくわえていた。
2
告白の手紙から付き合いだした二人は、文字と表情だけで通じ合い、会話も身体接触もないが、唯一、交互に書かれていく文と文が重なり合う口づけのような瞬間をテ’キス’トと読んでいる。
3
ギラギラした額をぬぐい切った彼は、すっかり気力を失い、ギトギトしたあぶらとり紙の塊からメラメラと青白い炎をあげる魂は、気力のある新しい体を探し始めた。
4
赤子を置いていったコウノトリのあとを追う途中の森の中で、狐の嫁入りを見かけ、山の奥では、子狐が赤子に化けて籠に乗せられるのを見た少年は、振り返り、しっぽが生えているか確かめた。
5
夜を乗り越えるために、夢の気球に乗って夜空をスヤスヤと飛び、空が明けてくると、朝を迎え撃つ輩の気球と入れ替わりに、高度を下げて目覚めに近づいていく。
6
心のブロックを砕き始めた彼は、コツをつかみ、堅いブログをも壊した中から身に覚えのない赤い玉が出てきて、それが止まれの合図とわからずに壊してしまうと、彼は壊れてしまった。
7
水祭りと称して強行されたその満員のライブでは、ドラムを叩けば、キーボードを弾けば、弦をはじけば、観客が歓声を上げれば、幻影世界を目の当たりにするようなライティングとともに、消毒液が噴射される。
8
雨乞いの願いを書いた凧を天へ飛ばすも、雨神は生贄が必要だといかづちを落とし、若い女を凧であげると、しばらくして甘い雨が降り、怒った民は、若い女に扮した男をあげると、野太い悲鳴とともに懺悔の大雨が降る。
9
神隠しに合うという場所を囲う金網フェンスをよじ登って中へ飛び降りた彼は、トランポリンのような地面に一回の弾みで空へ打ち上げられ、星粒になった。
10
地球という動物園の人に、神が嬉しそうにエサをあげている。
11
子どもの頃からみんなと同じ浮き輪を膨らます練習をして成長した若者たちは、海の渡り方を知らないまま、いざ、海に放り出され、波のうねりも荒れ方も千差万別の中で、沈みそうにない大きな老朽船をただ追いかけている。
12
若返りたい者たちに魔法をかけてきた年老いた魔女は、自分を若返らせることはせず、四百年も生きれば、死が待ち遠しくて仕方ない。
13
彼女は、みにくい自分がうつる鏡を殴って割ると、中から出してくれてありがとう、とみにくい自分が出て行き、それからどの鏡の前に立っても彼女の姿はうつらなくなり、誰にも見られなくなった。
14
猫がカーテンに爪を引っかけて身動きができないと鳴いている一方で、ハサミ男がウォーターベッドに空けた穴を押さえるたびに穴を空てしまう一方で、脳のない者が隠したつもりのむき出す爪で人の心を傷つけている。
15
彼は、自分の一部だとしてその抱え込んでいる本が重くても手放せず、自分が消えてしまうと恐れているが、本から足が生えて、知らぬ間にいなくなっていることに気づいていない。
16
だらだらと汗が滴り落ちる暑い中をぼうっと歩いている彼は、水打ちがされ、試食販売をしている爽やかな売り子に差し出された涼を感じさせるぷるんと透明な氷らしきものを食べると、一切冷たさを感じず、溶けるほどの甘さで、彼は溶けてしまった。
17
一人、片方に沈んでいるシーソーに寂しく乗っている彼は、相手がもう空に届いたか、上空を見上げている。
18
適当な場所に自転車を止めた男は、盗みに入ってさっさと帰ってくると、自転車のサドルとタイヤだけ残されていて、車体だけがなくなり、素早い高度な盗みに感心している。
19
彼女が、仕事に疲れて帰宅して、部屋の電気をつけると、窓がいくつか割られていて、割れた窓の形に切り取られて覗く夜陰の景色に、膝から崩れ落ちて涙する。
20
冬山にこもる一人の彫刻家の小屋に、髪をといてほしいと、髪が散り散りになって氷づけにされた状態で山を滑ってやってきた女の氷を丁寧に彫って、それからずっと男はその女の髪に櫛を通し続けた。
21
突如、地球のありとあらゆる音楽がいっせいに奏で始め、太陽が地球を赤緑青などライティングし、宇宙の大小の星々が、歌う地球に合わせて明滅して、全宇宙が盛り上がる。
22
二人は、崖を真上からおそるおそるのぞき込んでヒヤヒヤしていると、一人が前のめりにバランスを崩してしまったぁーーーーーー・・・。
23
崖から落ちそうになった彼女は、そばにいた彼の手をつかむも共に落下し、肩を組み、必死に二人が二人の羽となって体を羽ばたかせ、ゆっくりと着水すると、彼は泳げずに海に沈んでいく゜゜ぱ ゜ぷ ゜゜ぺ ゜へ゜゜。
24
溺れている彼は、そばにいた彼女の足をつかむも引きずり込んでしまい、手放せない夢をつかんだまま沈みゆく彼女は、宇宙をも引きずり込み、海が破裂して、彼女の夢が宇宙に広がった。
25
海水がなくった海底に穴が空いていて、そこから現れた地底人が溺れて意識を失った彼を穴の中に連れて行き、彼女も優しく案内されると、地底神殿の女王の椅子に座らされ、全地底人が彼女に向かってひざまずく。
26
地中深くの空間で、地底人は大きな土花吽玉を落下させて、土塊を派手に破裂させて、大きな音と揺れを起こし、大規模な宴が行われている。
27
地震で目を覚ました彼は、夢か現実かわからない迷路の地下洞窟を彷徨っていると、ガソリンスタンドのようにマグマを穴に注入し、自動販売機のように岩石を穴に入れ、地上で噴火させている人を発見してしまった。
28
出口を塞いでいた海水がなくなり、地底の雨もやみ、海の水をなくした彼女は地底人に、これで宇宙に帰れる、とお礼を言われている。
29
どこまでも続く地下洞窟の中に伸びる銀河列車の修理はすでに完了していて、地底人から塞いでいた出口を開けてくれた礼として、宇宙の旅に彼女と彼は誘われ乗った。
30
どこまでも続く宇宙に落ちる感覚はなく、列車が地球から遠ざかるにつれ、地に足つかない恐れにかられた彼女と彼は、地球に戻してもらい、まだ辿り着けない地平線に向かう方がいい、と二人は一緒にゆっくり歩き続けることにした。