一文物語365 2015年12月集

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一文物語365 12月

一文物語

1

流れてきた死体の上で、カエルがゲロゲロと死者に代わって人生の極みを吐露している。

2

一国一城の主となった老人は、急階段で、忠誠を示す者らに持たせた手すりを使っている。

3

昼間の太陽の下で遊べない子供が、月夜に柔らかな影の感触を確かめて走り回っている。

4

会社では寡黙の男が家に帰ると、亡き妻の石像を彫刻しながら、今まで聞けなかった自分の良さを一晩中石像に問い続けている。

5

街を離れて一人で暮らそうと山に入ると、神に願いが届いたのか、街は海に沈み、島となった山で孤独に暮らすことになった。

6

鮮魚店の前で、死の研究者がどの死にしようかと迷っている。

7

地底で大地の柱を破壊して、多事多難の世を治めるため神の名のもと青年が自らを犠牲にしたが、大地は全体的に数メートル標高が下がるだけだった。

8

白いワンピースの少女は、名前だけの友達にチクチクと心を針で突っつかれて、赤い水玉模様をにじませて、空笑う。

9

最期の進捗報告を行動で示そうと、ビルの屋上から飛び降りた。

10

さぼり癖の酷かった彼女は、とうとう人であることをさぼり始めた。

11

少女は、あの子の前でわざと上手くハンカチを落としてみせたが、拾って広げてはたいて渡しにきた隣の少年に返す礼の言葉と笑顔は用意していない。

12

最後の晩餐に魚の踊り食いを頼んだら、クジラがまるまる一頭出てきて、狂喜の中乱舞して飲み込まれてしまった。

13

魔女は念願の城を平原に建てたが、広すぎて管理ができず、魔物が住み着くようになり、経験値稼ぎの勇者御一行しかやってこない。

14

交際を迫ってきた彼女の家には男性たちの石像コレクションがあり、その視線を感じつつそこでくちづけをしている時、彼女の表情を盗み見ようと目が合い、石になった。

15

月光が差し込む窓辺で少女は、心に刺さった針が抜けないの、と糸がほつれている莫逆のお人形に囁いた。

16

二人は棒菓子の距離を縮めて、0の甘美に浸る。

17

本日は晴天なり、と作家は今日の頭の中の有様を表現することしかできなかった。

18

神は生命の有限設定を無限設定に変更しようとしているが、まだ実現していない。

19

いじめられっ子が一人外でお昼のお弁当を食べていると、なついてしまった野良ライオンがやってきて、可愛いので残りの弁当をくれてやる。

20

駅の伝言板に、さようならと殴り書いてある。

21

もうそろそろの時期だというのに、誰も取りに来ない大人の赤い衣装がクリーニング屋に並んでいる。

22

境界を越えた闇に美しい悪魔がいると、勇気を持った多くの男性が取材に行ったが戻ってくる者はおらず、みなそいつに仕えてしまっている。

23

お足元が寒いでしょう、と少女は雪降る中、木の根元を掘って長靴を履かせた。

24

自分で投げた紙飛行機に乗って海を渡るのが、彼の夢だった。

25

ハイスピードで進化した人気アイドルは、瞬く間に商機を通り過ごし、消え失せた。

26

大役を果たしたと思い込んでいる赤服たちは、正装に着替えて顔を赤らめてヨタつき、年の瀬に消えていった。

27

陰口ばかりする彼女は、陰口が隠しきれないほど積もり積もって爆発し、被弾して正気に戻った周囲の人々は戒心し、彼女を崇め始めた。

28

過去は輝かしくこれからも特別だと思っているその女性が、やっとの思いで買った高額で輝く石を身につけたら、石はくすんでしまった。

29

妻には知られたくないと、仕方なく知人に頼まれて、代わりに届いた先月分のクレジットカードの明細書を、驚愕の金額に笑って、捨ててやった。

30

寝ぼけて、とび出る絵本を開いたら、目覚めのパンチが飛び出てきた。

31

女が短い言葉を言って出て行った喫茶店で、蝶が角砂糖を持って落とし所をさまよっていたが、ほろ苦い表情を浮かべる一人の男性のカップに向かって行った。

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一文物語365の本

2015年12月の一文物語は、手製本「花」に収録されています。

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一文物語365 12月

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