14.理想水郷の研究 [小説 理想水郷 ウトピアクアの蝶]

Web連載小説「理想水郷ウトピアクアの蝶」第1章セリカ・ガルテン 14.理想水郷の研究

翌日から、ほとりは明日架と学園島を見て回る。水の実がなる木や小さく固形化された水を見たり、水を有効活用するための研究や実験が行われていた。

そして、ほとりは囚われたシュメッターを救う役を担い、最初のウトピアクアへ。

ほとりの役目

 翌朝、ほとりはユーリと朝食をとったあと、バタつく寮を抜け、まだ静かな学舎の三階一番奥の生徒会室へ向かった。

「おはようございます」

「おはよう。昨日は、よく眠れた?」

 日が差し込む大きな窓から海を眺めていた明日架が振り返って言った。机で書類を眺めながらツバメも、表情を変えずに挨拶をした。

「最初はなかなか寝付けませんでしたけど、気づいたらぐっすり眠ってました。もう今朝は、すっきりです」

「良かった。それは?」

 明日架は、ほとりの肩にかけられたガラス瓶を差した。

 ほとりは、昨晩、ケイトに渡され、元の世界から一緒に持ってきてしまったことを話した。奥園でケイトと話した内容が頭によぎったが、それについては口にしなかった。

 明日架からもそれを大事にするように言われた。

「早速だけど、ほとりにはインボルク計画に加わってもらう」

 明日架の一言に、ほとりの心臓が強く打ち始め、息を一つ飲み込んだ。

「インボルクを実行に移すには、必要なものがある。ベレノスの光という石のかけら。これは、時期が来れば手に入る。

 けれど、それを扱える者は限られている。それは特別なシュメッターにしかできない。私とツバメ、もちろん、ほとりもその一人」

 ほとりは、静かに頷いた。

「実は、ベレノスの光を扱えるシュメッターは、六人必要。あと三人は、別のウトピアクアに囚われている。ほとりはその三人を助ける役目をお願いしたい」

「え、でも、私にそんなこと……。それにウトピアクアに囚われているってどういうことですか。理想水郷なのにどうして」

「理想水郷ウトピアクアといっても、様々ある。ほとりの目でそれは実際に確かめてもらうのが一番。行けばわかる。

 もちろん、ここに来たばかりで、急に行けとは言わない。大変なのは重々承知しているよ。

 だから、しばらくは私と行動して、理想水郷をどう作っていくか、学園島を回って学んで欲しい。

 それと、飛び方を覚えよう。訓練しよう」

「はい……」

学園島の理想水郷研究

 実際に、ウトピアクアに行くまでの二週間、ほとりは明日架とともにセリカ・ガルテン学園島のあちこちを見て回る日々だった。

 砂漠に植物や木を植えて、育てる実験が行われていたり、水気のない場所で育つ植物が水脈まで根を伸ばして、水を吸い上げる植物を作ろうとしている研究もあった。

 また、水の実がなるヤシの木みたいな木も紹介され、驚いた。シャボン玉がたくさん固まったように実がなっていた。森のウトピアクアにあった植物らしいが、もうそこへは行けない話を聞いた。

 海沿いから島の内側に家々が並ぶ場所では、地表の傾斜を利用して水を流す技術を研究していた。さながらローマ水道のようだった。

 ケイトたちの離れ小島では、海水を淡水、飲み水に変える研究を行っていた。ほとりが落ちたいけすは、そのための海水だった。

 ほとりが一番驚いたことは、学舎の一室で行われていた、水を小さく固めておく研究だった。氷としてではなく、常温で固形化し、強い振動を与えると、もとの水に戻る仕組みだった。

 またその仕組みを応用した粉があり、振りまくと大量の水が硬化するという。洪水などを想定した取り組みらしかった。

 ほとりが興味深いと思った取り組みもあった。

 それは、水と共生するライフデザインを生み出すものだった。様々な水の都市が絵として描かれ、元の世界にあったような都会から、未来的なもの、原始的なイメージがずらりと描かれていた。

 学園島で研究されたものを取り入れたデザインや、まだ空想上のシステムとして描かれたものもあった。それが実際に研究に移されていくこともあるようだった。

 ほとりは、自分も絵なら描けるし、役に立てると思った。しかし、水のある絵が描けるか不安がよぎった。筆は進まない。

 ――そういえば元の世界で、私の存在はどうなっているだろう。

 あいまあいまで、ほとりは自分の羽で空を飛ぶ練習をした。

 昼間は、明日架に見てもらい、夕方以降はユーリにも教えてもらった。しかし、ほとりの羽から空への推進力はいっさい生まれることはなかった。

 蝶人てふとのように、ほとりが上手く羽を動かせないことも原因だったが、その羽自体が普通の羽とも違うように感じられるとも、明日架とユーリは言う。

最初のウトピアクアへ

 結局、ほとりは飛べないまま、本来の役目を実行に移すため、不安を抱えたまま昼間の奥園へ連れてこられた。

 夜、ケイトに連れてきてもらって以来だった。昼間でも、人の気配は他になかった。

 小川から上がった道をさらに奥へ進んだ先の岩山に、ぽっかりと口をあけた洞窟があった。入り口の横には、看板が立てられ、バックウェーブと書かれていた。また、許可なく入ることを禁じられ、生徒会への申請が必要なことも書かれていた。

「ここへ行くのは、生徒会に入った新人の通過儀礼でもある。初めてのウトピアクアの見学だと思ってもらっていい。

 でも、ほとりには囚われているシュメッターを助け出してきて欲しい」

 明日架に強く見つめられたほとり。

「あなたと同じように、インボルク計画に必要な人材です。実は、過去、そのシュメッターを連れ出せた新人はいません。あなたにかかってるから」

 ツバメから強い語気で言われた。

「え、あ、はい……」

 説明を受けて納得はしたつもりのほとりだったが、声は小さかった。

「大丈夫、ほとりならできるから」

 明日架は、ほとりの両肩に手を置いた言った。

 ただ予言の子とされただけで、どうしてここまで期待されてしまっているか、わからない。

「自分の直感を信じれば上手くいくから」

 と、明日架はつけ加えた。

 ――直感。

 ユーリにも言われたことを思い出す。ほとりは自分の直感というものがどこまで当てになるのか疑問だった。しかし、ウトピアクアをひと目見たいのも事実だった。

「では、行ってきます」

 二人に見送られて洞窟を進んだ。外の光が届かなくなった辺りから、奥で光るものが現れた。

 それは、洞窟の空間全体を遮るような光のカーテンだった。その先にウトピアクアがある。

 ほとりは、意を決して腕先を光の中へ入れて、ゆっくり歩みを進めた。

 第1章 学園島 セリカ・ガルテン 終わり

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ファンタジー小説「理想水郷 ウトピアクアの蝶」
泳げない少女が、予言の子として理想水郷を作る異世界に移動してしまう。蝶の羽を生やす妖精の力を得て、理想水郷となる島を巡って、この世界に隠された力を奪い合う争いに巻き込まれる。

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