5-2.ニタイモシリ [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]

Web連載小説「理想水郷ウトピアクアの蝶」第5章 怪奇な森の従属蝶 2.ニタイモシリ

仮面の蝶人は、地底のゲートがあることを初めて知る。

しかし、セリカ・ガルテンへのゲートは大樹王によって閉ざされ、通れないと聞かされたほとりは、ここが森の島の理想水郷だと知る。

不侵入の森

「どうやってここへ入り込んで来た」

 口元の空いた仮面をつけた蝶人の高い声が、一帯に響いた。

「向こうにあるゲートから」

 ほとりは戸惑いながら、すでに元通りになってしまった無き道を指差して答えた。

 仮面の蝶人は、ほとりの指した方向をじっと見つめ、無言でそっちに飛び去ってしまった。

 ほとりは、蝶人がいなくなって心細くなった。この森のことを知る者と出会えたと思えていた。

 クォーツは、呼吸をするので精一杯の様子だった。これ以上、歩かせられる状態でないのは一目瞭然だった。

 ほとりは、自分が飛べれば、と後悔をするも、反射的に別の方法を考え始めた。

 ガサッと、目の前に仮面の蝶人が降りてきた。

 黒と緑の羽は、ララの羽のように大きいが、とても小柄な蝶人だった。

「あんなところに洞窟があるとは気づかなかった。あんたたち、いったいどこから来た?」

「地底から」

「地底? セリカ・ガルテンから地底に行けるなんて、聞いたことない。あんたたちは、地底人なのか?」

 仮面の蝶人が聞いた。

「私は、セリカ・ガルテンから地底に行って、彼女とはそこで出会った蝶人」

 そこでほとりは疑問が浮かび、続けて聞く。

「ゲートがあることを初めて知ったということは、誰かとここで出会ったことも?」

「ここに人、いや蝶人が来たのは、私が最初で最後。ここで、誰かと会ったこともない。あんたたちが初めて」

 ――それじゃぁ、地上への道があるにも関わらず、地底人は誰も地上を確認しに行こうとしていなかった。

「私たち、セリカ・ガルテンに戻りたいんです。ゲートに案内してくれませんか。クォーツの体調も悪くて」

 ほとりは懇願した。

「セリカ・ガルテンとのゲートは、閉ざされているから、行くことも向こうから来ることもできない」

「え、どうして」

「それがニタイモシリの答えだからだ。ここでは自然に従うほかない。

 しかし、それが理想水郷だと私は思っている。ここが嫌なら、地底へ戻れ」

 ほとりは、なにも言えず黙り込んでしまった。

森の意思

 地底へ戻ったとしても、テクリートによって道は閉ざされて、神殿にすら辿りつけない。

 ほとりが考えあぐねていると、仮面の蝶人が指を差して聞いてきた。

「それはなんだ」

 地面に転がったベレノスの光を指していたので、ほとりはそう答えた。

「なんであんたたちがそれを持ってる。今すぐそれを持って地底に戻れ。それをここで使えば、どうるなかわかるか」

 強い口調で仮面の蝶人が言い放つ。

 ほとりもすぐに蝶人の言いたいことを理解した。辺りは木や草ばかりだ。

「少し私たちの話を聞いてください。彼女も少し休ませてあげたいし……」

 その時だった。また、蔓が、頭上からほとりたちに伸びてきた。今度は、さっきよりも太い蔓も伸びてきていた。

 そして、ほとりたちを取り囲む草が、鋭い先端をほとりたちに向けた。

 ほとりは恐怖を覚えるも、クォーツをかばうように覆い被さる。

「森たちが、うるさいと言ってきている」

 仮面の蝶人は、宙に浮かび、蔓に触れてじっとした。

 すると、蔓は引き上げられ、草は、風に揺られて、緊張感がなくなった。

「森と相談した。今すぐここから立ち去る条件に手を出さないと言ってくれた。

とりあえず、私の小屋へ連れて行く。これは、私が預かる。使われても困るからな」

 仮面の蝶人はベレノスの光を恐る恐る指で突っつき、何も起きないことを確認して抱えて、飛び上がる。

「さっさと、そいつを抱えろ」

「あの、私、飛べなくて――」

クドネシリカ

 ほとりは、仮面の蝶人に抱えられて、森の奥地へと連れて行かれた。

 小屋といっても、簡素な作りの丸太小屋。雨風は最低限防げる一部屋の一角の草のベッドに、クォーツがすでに寝かされていた。

 ほんの少し離れたところに沢もあり、かすかにせせらぎが聞こえる。

 仮面の蝶人は、クォーツの反対側の隅にベレノスの光をそっと置いた。そして、水瓶の水をクォーツに飲ませるようほとりに指示した。

 水を飲んだクォーツの顔は、ほてりが少しとれたように見え、呼吸も落ち着いてきた。

「ありがとうございました。私は、浅葱ほとり、と言います」

「私は、クドネシリカだ。シリカでいい」

 シリカは仮面を取り、床に敷いてあった厚い乾いた葉の上に座った。仮面の下のシリカは、口調からは想像できないとても幼い顔をしていた。

「子供だと今、思っただろ」

「あ、いえ。ただ、どうしてたった一人でここにいるのかと思って」

「適当に座れよ」

 敷物は、当然、シリカの一枚しかなかった。床は落ち葉や乾いた土で汚れていたが、ほとりは、シリカとクォーツとの間に座った。

「なんで一人でいるかって。ここが、私の理想水郷だからな。ここ以外、理想水郷は認めない」

「森の島なんですよね、ここ」

「あぁ、ニタイモシリ。意味は森島。そのまま」

「ニタイモシリ。他に一緒に来た蝶人はいないんですか」

 ほとりが聞いた。

「こんなところに来たがるやつは、一人もいなかったよ。鬱蒼とした森しかない島なんかに」

 ほとりは、それだけの理由で誰も来ないのか不思議に思った。

 ――ピラミッド島に比べれば、まだ森の島なら私は。

「ベレノスの光があるってことは、どうせ、今も変わっちゃいないんだろ。インボルクの浄火だのルサルカだの」

「……はい」

 ほとりは静かに答えた。

「いずれわかる。人は、自然に逆らって生きることはできない。人は、自然に従って生きるほかない。制御しようなど、無駄だ。

 セリカ・ガルテンがそれに気づかないうちは、大樹王はセリカ・ガルテンのゲートを閉ざし続ける」

「大樹王……」

「この島を司る巨木。ここは、蝶人が管理する島じゃない」

 ここが今までとは違うウトピアクアであると、ほとりは理解した。しかし、セリカ・ガルテンに戻る努力をあきらめるつもりもなかった。

5-3.コルコポの精

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この記事を書いた人

水島 一輝

水島 一輝

小説家・ブロガー・Webデザイナー・オンラインショップ運営経験/2018年末までの5年半、毎日1つ一文で完結する一文物語を作り続けていました。現在、ファンタジー小説を当サイトで連載中!想像力が人生を豊かにするがモットー。

Web小説連載中!

「理想水郷 ウトピアクアの蝶」
異世界に迷い込み、妖精の力を宿した少女のほとり。新しい理想水郷の島作りを目指し、様々な理想水郷を冒険をしていく長編ファンタジー小説!

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