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2-12.三人で帰還 [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]

2019 10/06
2-12.三人で帰還 [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]
キャプション

ララとともにサーカス小屋を飛び出たほとりは、ユーリとともにゲートを目指す。

川の上で待っていた本当の島主である老年の蝶人から、蝶人がいない理想水郷りそうすいきょうの真実を聞かされる。

そして、三人はセリカ・ガルテンに戻っていった。

目次

初めての外

 ほとりとララがテント小屋から飛び出た直後、小屋の中からざわめく声がいっせいに上がった。

「作戦、成功!」

 ユーリがほとりの隣まで飛び上がってくると、ナイフを見せてきた。

「ユーリ、ありがとう。って、それ、ミクロスさんの。返さないと」

「今から、戻れるわけないでしょ。きっとサーカス団の関係者が追ってくる。すぐに学園に戻るよ。新米ちゃん、私について来て」

「ララ、大丈夫。私の友達」

 ララは、軽く頷いて、ユーリについていく。

 サーカス小屋を出るのが初めだったララは、分厚く暗い雲の下に広がる夜の町をキョロキョロと見ていた。

「外が、どこまでも続いている」

 ララは、目を輝かせる勢いだった。

「そうだよ。明るくなったら、もっと遠くまで、もっと広いことがわかるから」

「外は、広いんだ」

 川へ向かって行くと、工場の煙突から上がった煙が流れてきた。

 けっして空気はよくないこの空だったが、ララが羽を伸ばして、気持ち良さそうに飛んでいる姿を見て、安心した。

 ――狭いサーカス小屋から、連れ出してよかった。

 見覚えのある川べりが近づいてきた。大きな排水管の中に、セリカ・ガルテンへのゲートがある。

 急に前を行くユーリが止まった。ララも止まる。

 目の前に、老年の蝶人がいた。

バックウェーブ島の島主

「予言の子は、あんたかい」

 と、言った老年の蝶人の羽は、かなり傷んでいて、宙に浮いているのがやっとだった。

「私じゃない。この子」

 ユーリが横に移動して、背後にいたほとりを差すと、老年の蝶人が眉をひそめた。

「まさか、飛べないのかい? 羽があるのに?」

「は、はい……」

 ララの手を握っているほとりは、まるで捕らえられたかのような姿に、惨めさを感じた。

「本当に予言の子なのかい?」

「そう言われているだけで、私にはそういった感覚はなくて……」

「ほとりだけ、一人遅れて、セリカ・ガルテンにやってきました。私は目の前で見てるから、そうだと思います」

 ユーリが言った。

「遅れてか。新しい島の誕生とともに、予言の子が一人でやってくる、とは聞いていたが、本当だったようだね」

 老年の蝶人は、息をゆっくり吐いて、わずかに頷いていた。

「あなたは?」

「あぁ、私は、フィロメーナ・バックウェーブ。この島の島主」

「あなたが。でも、床に伏しているって?」

「ミクロスから予言の子の話を聞いて、ひと目拝もうと待っていた。

 ほんとうに水工場を抜けだし、サーカス団から蝶人を連れ出してくるとは思わなかった」

「フィロメーナさん。本当にここが、あなたの目指していた理想水郷だったんですか?」

 ほとりは、表情をやわらげたフィロメーナに、真意を問わないわけにはいかなかった。

「最初は違ったよ。だが、理想がなかなか実現できず、ただの空想にすぎないと思われると、私の力は弱まり、私は島主の名前だけ残して、お払い箱になった」

「でも、どのシュメッターもウトピアクアを作る使命があるはず」

「どのシュメッターも、まったく同じウトピアクアを目指しているわけではない。理想は千差万別。

 私の名前を使った後継のシュメッターが、島の実権を握っている」

「あなたは、もう何もできないんですか?」

 ほとりが聞いた。

「人が増えすぎて、もう後戻りはできない。リセットボタンでもあればと思うが、それもピラミッド島の二の前になるさ」

 ――ピラミッド島。そういえば、ケイトさんが言っていた。

蝶静水

「一つ、いいですか?」

 ユーリが言った。フィロメーナは、頷いた。

「ここがウトピアクアなら、住人は全員、蝶人のはず。なぜ、羽のある者が、この子しかいないんですか?」

 ユーリがララを指差して聞いた。それは、ほとりも疑問に思っていたことだった。

「サーカス団関係者の上層部、その子以外は、生まれてすぐに蝶静水ちょうせいすいを飲まされて、蝶人の力を押さえ込まれている」

「蝶静水……そんなものが。この島の人たちは、自分が蝶人だって知らないんですか?」

 目を丸くしたユーリと目があったほとりが聞いた。

「残念ながら、知らない。ただの人だと思っている。全員が蝶人だと都合が悪いんだ。この理想水郷ではね」

「そんなこと……」

「予言の子よ。名前は?」

 フィロメーナが聞いた。

「浅葱ほとりです」

「浅葱ほとり。ウトピアクアを作りたい気持ちはあるかい?」

「あります」

 ほとりは、即答した。

「そうかい。予言の子の力なら理想水郷が作れるだろう」

 フィロメーナは、ほとりから視線を上げてララを見つめた。

「それと、マルコといったかな。辛い思いをさせて悪かったね。外の世界に驚くこともあるかもしれないが、自分を大切にね」

 ララは、何も返答しなかったが、ほとりの手を強く握ってきた。ほとりも強く握り返した。

「止めてしまって悪かった。早く行った方がいい。サーカス団の者たちが追ってくるだろう。

 あと、ゲートはすぐに見つかることはないだろうが、場所を変えておいた方がいい」

 フィロメーナは、前方を空けた。

 ユーリが進むと、ララも後を追った。

帰還

 大きな排水管のある川辺まで降りると、鼻をつく臭いが強くなる。ララも鼻を押さえ、顔をゆがめた。

 ほとりはその顔を見て、ララ本来の一面に触れることができたように思えた。

 羽のないララは、小さかった。ほとりは、自分よりも幼い子が人前にさらされていたことを思うと、胸が締めつけられた。

 排水管の中は、真っ暗だったが、ずっと奥に円い光が見えた。

 ほとりは、ひらひらの衣装をララにつかまれた。

「こわいよ……」

「大丈夫。私がついているから」

 ほとりは、ララの手を握ってあげた。

 前を歩くユーリが、顔をほとりに向けると、笑顔を見せた。

「かわいい妹ができたって感じだね、ほとり。お揃いの服も着ちゃって」

 ユーリに言われたほとりは、自分を見下ろすと、妖精の衣装姿であることを再認識する。

「え、待って。このまま戻るのは恥ずかしいよ、ユーリ」

「知ーらない」

 ユーリは、光り揺らぐゲートをさっさとくぐって行ってしまった。

 目の前でユーリが消えたことに、ララは驚き、ほとりに身を寄せた。

「大丈夫。痛くないし、消えないから」

 ララの肩を抱くようにしてほとりは、ララと一緒に、光りのカーテンの中へ進んだ。

 ゲートをくぐると、そこは空気が澄んでいた。

Web連載小説「理想水郷ウトピアクアの蝶」第2章 バックウェーブ・サーカス団の蝶々 13.歓迎

2-13.歓迎

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