2-3.フリークショー [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]

2019 10/06
2-3.フリークショー [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]
前書き

サーカスショーの後、一変した静かな演出の中、水に触れた人々が異変に襲われていく物語が始まる。

双子の子供、大男、白い女性、痩せこけた人、小さな人、最後に蝶の羽が生えてしまう少女がステージに登場する。

目次

二人の一つの影

 音楽が小さくなって、かわりに川のせせらぎが聞こえてくるようになった。

 お腹が大きい貧素な姿の妊婦が、バケツを持ってステージの中央に現れ、ひざまずき、手で川の水をすくって飲む動作をする。

 それからバケツに川の水をくみ、ステージの奥へと去って行くと、赤ちゃんの泣き声が響き渡る。二つの赤ちゃんの声だった。

 泣き止むと、山が二つの影が伸びてきた。光を背後から浴びたそれがステージに現れると、おおー、と観客の低い声がどよめいた。

 ほとりは、すぐにそれが何なのかわからなかった。二人の子供が肩を組み合って登場したようにしか見えない。

 正面からライトが当てられると、立派なドレスを着せられた二人の少女――体はひとつだが、頭が二つあり、まるでヒトデのように、胴体部分が接合してしまっていた。

「アンとウンの双子だよ」

 と、近くの観客がボソッと誰かに言っているのをほとりは耳にした。

 肩を組んだようにみえるその結合双生児は、意思疎通のとれた歩きで、ステージの縁をぐるりと駆け抜けると、聞いていられないような心を引き裂く無慈悲な言葉が客席から発せられた。

 つられるように、その言葉を真似する声が増えていく。それでも彼女らは、表情をいっさい変えることなくステージの奥へと消えていった。

海から大男

 暗転すると、海のさざ波が聞こえてきた。

 喉を押さえて苦しむ少年が現れ、ふらふらとステージの端から落ちていなくなる。同時に海に潜った効果音に包まれた。

 すぐに、もがいて海から上がる音へと切り替わった。

 少年が落ちた位置から、大きな大きな人が這い上がってきた。少年と比べたら、五倍は大きい。

 彼は、大きくなってしまった自分を見て慌てふためき、低い声でわめきながら、ステージ奥へと走り去っていった。

雨の白女

 雨の降る音に切り替わると、肌の色が濃い女性が出てきた。

 天井から雨のように水が降らされ、その女性は瞬く間にびしょ濡れになってしまった。

 突然、その女性が顔や体を押さえ込みながら、金切り声を上げ、のたうち回る。

 テント内に響き渡る悲痛な叫びに、ほとりの心臓は痛く打ち続ける。

 静かに立ち上がった女性の体の色が、みるみると真っ白に変わっていった。腰まで届く長い髪も、目の色も真っ白になってしまった。

 ライトが反射して、表情すら白く飛んで、うかがい知ることができなかった。

生ける骸骨

 暗転し、不気味に薄暗いステージ。

 ポツンと設置された井戸に、見るからに筋肉質の男性が、肩で息をし、口を大きく開け、必死に井戸の水をくみ上げる。

 そして、いっきに水を飲む。

 と、天を見上げたまま、桶を落として苦しみ始め、井戸の裏側へと倒れ込んでしまった。

 客席からは井戸と重なって男の姿が、一瞬見えなくなり、反対側からげっそりと痩せこけた姿になって、転がり出てきた。

 立ち上がるのもやっとで、骨に皮膚をはり付けた姿に変わってしまっていた。

「生ける骸骨男だ」

 客席のどこかで、そんな声がした。

 ほとりは、息を吸っていいのか吐いていいのかわからなかった。

 風が吹く音とともに、草がカサカサとかすれる乾いた音が聞こえてくると、骸骨男は風に押し流れるように、ステージ奥へと消えていった。

小さな人

 ガサッ、ガサッと草むらを這いつくばうように、中年の男性が現れた。そこに池があるかのように、手で水をすくって飲んでいる。

 やはり、苦しみだし、そのままステージ奥へと転がりながら姿が見えなくなる。

 そして、今度は小さな小さな男性が転がり出てきた。自分の小さくなった姿に落胆したその姿がさらに小さく見える。

 その男性は、ついさっきまで動物を操っていた調教師だった。

 獰猛な動物相手に、臆さず演技させていて感動したほとりだったが、彼がフリークだったことに複雑な心境になった。

蝶の人

 照明と音が消え、静けさに包まれた。観客の息づかいだけが伝わってくるようだった。

 スポットライトがステージの一箇所を照らすと、年端もいかない少女が、みすぼらしい姿で、ふらふら歩いていた。

 もう一方から瓶をいっぱい乗せた荷車を引く男がやってきた。

「機会の国で生成された新鮮な水。お嬢さんも飲むかい?」

 少女はコクリと頷いて、瓶を受け取り、男はそのままいなくなる。

 その水を飲んだ少女は、お腹をかかえて苦しみ突っ伏すと、言葉にならない叫び声を上げた。

 何が起こるのかと、ほとりは両手を握り締めていた。

 少女は、絶叫とともに、背中をのけぞらせた。

 彼女の背中から、蝶の羽が、バサッと七色の粒子を振りまいて、生えた。

 オレンジ色を閉じ込めるように羽の縁は黒く、ところどころに黒い斑点のあるその羽は、少女の三倍はある大きな羽だった。

 スポットライトを浴びた蝶人に、ほとりを含め、観客の視線が集められていた。

Web連載小説「理想水郷ウトピアクアの蝶」第2章 バックウェーブ・サーカス団の蝶々 4.バックウェーブの水

2-4.バックウェーブの水

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