6-2.ベレノスの光 [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]

2019 10/08
6-2.ベレノスの光 [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]
前書き

ほとりとクォーツが移動した場所は、ベレノスの光が現れる山だった。

ほとりは、ツバメにベレノスの光を奪われ、崖から突き落とされてしまう。

目次

理想の相違

 ツバメの背後に立つ黒い山が、ツバメの心を反映しているようにしか、ほとりには見えなかった。

「セリカ・ガルテンに誰もいませんでしたが、みんなは……それにここはいったい」

 ほとりは、意を決して聞いた。

「あのセリカ・ガルテンは、もういらない。腐死蝶は殺しても殺しても学園に湧いてくる。

 今、会長をはじめ、みんなでベレノスの光を山頂に取りに行っている。他の島の蝶人どももいるから、人数が必要なの」

 ほとりとクォーツは、塔のように伸びる黒い山の上を見上げた。どこが山頂なのか霞んでいてよくわからない。

 ベレノスの光が山の上にあるのか不思議だと思った。しかし、地底で水が放出されていたことと、ベレノスの光を祭壇の上に置いておくことから推察すれば、地底と山頂がつながっていて、水が山頂まで運ぶこと以外考えられない。

「もちろん、会長がベレノスの光を手に入れて、新しい島をウトピアクアにし、セリカ・ガルテンとしても作り直す。

 そう。これから邪魔者は、島とともにインボルクの浄火で、焼き払うのよ」

 依然と淡々と語るツバメの発言が、冗談とは思えず、むしろ恐怖すらほとりには感じられた。

「インボルクの浄火は、大地を焼き尽くして、奪い取るためのものではありません。

 みんなの祈りを天へ届けるためのものなんです。理想への誓い、象徴なんです。私は、それを明日架さんに伝えたい」

 ほとりはベレノスの光を強く抱えたまま言った。

「まるで使い方を知ったような口ぶりね」

 脳裏に炎に包まれたミズホの姿が浮かび上がる。それはツバメも同じだった。しかし、ほとりは、大樹王が燃える光景を強く抱いていた。

蝶人ツバメ

「もしかして、あなたが抱えているものは、ベレノスの光?」

 ほとりの抱える腕に、無意識に力が入った。

「あなた、どこでそれを手に入れたの?」

「そんなこと、どこだっていいでしょ」

 羽を広げたクォーツがクリスタルの剣を体の前で構えた。

「ふふ、ベレノスの光がもう一つあるなら、それにこしたことはない。

 よくやったわ、ほとり。それをよこしなさい。私が、会長に届けるわ」

「なんで、あなたに渡す必要がある」

「ほとりが連れてくる蝶人は、うるさいやつらばかりね」

 ツバメは、すっと手をクォーツに向けた。また蝶がどこからともなく現れた。

「な、なに、なに」

 クォーツの持つ剣に蝶が山のように集まり、クォーツは振り払おうとするも、あっという間に剣が見えなくなってましった。

「あっ」

 クォーツが握っていた剣は消え、一瞬でツバメの手に移動してしまった。

 ほとりは、その光景を見て、ツバメが再三自分の前によく現れるのを思い出した。裏山にいた時、ケイトと川辺で蛍を見ながら話していた時も。すべては、蝶から情報を得てツバメに監視されていた。

「それをよこしなさい」

 クォーツがツバメの前に立ちはだかる。

「クォーツ……」

「状況が全然わからないけど、私はほとりの見方だから」

「あなたが守る対象は、もう消えた存在なの。ここにいられては困るのよっ」

 ツバメは、剣を振り降ろす。

 クォーツは、からがら横へ避けた。

「ほとりと一緒に飛んで逃げる手もあったのに」

 あっ、と、虚をつかれた表情をしているクォーツに、ツバメが手をかざすと、大群の蝶がクォーツを集まりだした。

 顔だけが見える状態で、クォーツはまるで蝶の重さに耐えられないかのように、その場に倒れ込んでしまった。

「飛べないあなたは、本当に用済みなのよ」

 ツバメとの距離を保つようにほとりは、一歩一歩下がっていく。しかし、崖から吹き上げる風がほとりの背中を押し止めた。

 ほとりは、また一か八か飛び降りて、飛べるか試そうか考えた。しかし、飛べればいいが、飛べなければ落ちて、どうしたらいいのか何も考えられずにいると、ツバメがまた剣を振り降ろしてきた。

 剣先とベレノスの光がぶつかって、甲高い音と同時に、腕に衝撃が走り、ほとりは抱えていたベレノスの光を落としてしまった。

 崖の縁、ぎりぎりでベレノスの光はとどまった。

 その時、山の上から歓声が聞こえてきた。

 そして、噴火でもしたのかのように山頂が赤く染まる。

「ついに手にしたようね」

 ツバメの口ぶりから、明日架もしくは別の誰かがベレノスの光を手にし、それを使ったのだろう。

 たちどころに、いくつもの炎が上がり始め、それらがいっせいに、月の下を通って、どこかへ飛んでいく。

 まるで、巣立ちをしていく不死鳥のように、炎の羽を広げ、尾を伸ばし、同じ方向に飛んでいった。

決別

「どうしてあんなに……」

 ほとりは空を見上げたまま言った。

「ベレノスの光を一人で使えば、体に与える影響は大きい。姉さんの一件でよくわかった。

 会長は、ベレノスの光を細かく分けて、多くの者とインボルクの浄火を行うことにした」

 ツバメが答えた。ほとりは、それで明日架が派閥を作ってでも、人を集めていた理由がわかった。

「新しい島は、思ったよりも大きくて人手が必要。もう一つ、ベレノスの光が手には入って良かった。

 二度と、私と会長の前に現れないで」

「私は別に……ただ理想水郷をみんなで作れれば――ッ」

 ツバメは、一歩ほとりに近づいた。

 ほとりは、にぶい衝撃の一瞬あとに、腹部に痛みを通り越す冷たい氷を差し込まれたように、全身が冷たくなった。

「ほとりっ」

 クォーツの声で、我に返ったほとりは、視線を下げた。

 ツバメが握るクリスタルの剣が、自分の腹部に突き刺さっていた。

「私が会長とともに生きるのよ」

 ほとりは、見たままの状況は理解できていた。だが、そこから思考は進まず、表情のないツバメをただ見つめることしかできなかった。

「ツバメ、そこで何をしている」

 ケイトの声だった。三人の蝶人が、黒い山肌を滑空してきた。

「もう遅い。予言の子、さようなら」

 剣をほとりの腹部から引き抜くと、ほとりは力なく、そのまま後ろへひっくり返って崖から落ちていく。

「ほとり――」

 クォーツの叫び声が聞こえた。一瞬、声の方を見ると、飛んでくるケイト、ユーリ、ララの姿が見えた。

 しかし、崖の荒い表面が逆さまに流れてきて、三人の姿を見えなくした。

「ほとり――」

「ほとりさーん」

 ユーリとララが崖を飛び出し、真っ逆さまに追いかけてくる。

 手を伸ばしてくるも、ほとりはそれをつかむことはできず、そのまま海に落ちてしまった。

 無数の泡に包まれたほとりは、力なく闇の中へ吸い込まれるように沈んでいく。

 ユーリかララが、潜って来ようとしていたが、激しい波でその姿はもみ消され、ほとりは意識を失った。

Web連載小説「理想水郷ウトピアクアの蝶」第6章 理想水郷の蝶罪人 3.リョーヤの絵

6-3.リョーヤの絵

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