一文物語365 2017年11月集
一文物語
1
毎日、仕掛けた罠を見にいくが獲物は入っておらず、仕掛けが作動していないのかもしれないと、試しに引っかかってみると、閉じ込められ、仕掛けに異常はない。
2
ヒト魚雷に沈められた、と艦隊から生き残った船員は口々に話し、次々と男どもは人魚の魅惑に惹かれて海に落とされていった。
3
流木が流れ着いた大荒れの晩、雷鳴のごとく大地に響く太鼓でこの地に眠る神が目覚めて巡り合わせられた神木を拾い、黒雲を吹き飛ばして天照らす。
4
夢に見た天の国へ渡る伝説の橋を発見したが、すでに流されてしまっていて、記念に撮った写真には光の中へ続く橋がかかっていた。
5
神のお守りを得られる国から長旅を終えた翌日、体が重く、頭痛もひどく旅の疲れが出たかと思ったが、この体を出てうちに帰りたい、と宿った神がグズをこねてホームシックになっている。
6
女性キャラクターしか作らなかった人形造形師が、もっと精巧でやりがいもあり徳のある仏師を志すも、どうしても萌えてしまう仏像しか生まれない。
7
授業中、よく寝ている彼女は、夜の校舎からスカートをひらひらさせて空を飛び、星の収集に忙しい。
8
目をつぶった彼女は、目の前の線路に飛び出せば無になれる、とじっと意を固めて飛び出ると、運悪く到着した列車の開いたドアに入り込んでしまい、それは二度とこの星に帰ってこれない銀河を越える列車だった。
9
女王陛下の専用移動機がなくなると同時に、女王陛下の姿も消え、臣下たちが総出で宮殿の外を探しまわって海上で移動機が発見された頃、誰もいなくなった宮殿を女王陛下は単に迷っていた。
10
仕事で落ち込んでしまった彼女を慰めるために、彼はポケットに忍ばせていた名言集をここぞとばかりに開き、説法の一部を読み上げると、彼女はいまいち響かないと一言だけ残して、家を出てしまった。
11
彼が血を滲ませるように詠んだ最後の詩を忘れないように、彼女は涙ながらにその一遍を腕に白い糸で刺繍した。
12
ここは晴れていて日光浴にもよく、ぼーっとしていられるのはいいが、こうも渋滞しているとゆっくりしてもいられず、皆、一帯となった雲の上を歩き始めている。
13
くじらと握手をしたい蝶が、沖に向かって飛んでいる。
14
異国の地で買った蜂蜜は、口の中で広がる甘さとともに、なぜだか涙が流れ、それは恋人にフラれた詩人の淡い色の詩を聞かされた花畑の蜂蜜であった。
15
風に乗って、草の葉、草の葉、草の葉、草の葉、草の葉、髪の毛、草の葉、草の葉。
16
勧誘の仕事に疲れた彼は、浜辺で潮の音を聞いて癒されていると、寄せては返す波に誘われて姿を消した。
17
春は桜を散らし、秋は葉を落とし、冬は雪が降り、試験も、採用も、評判も、世間も、世界は落ちるような事ばかりで、と考えていたところ、目の前を素敵な女性が通り、恋に落ちた。
18
秘密倶楽部の金庫に隠しておいた秘密が盗まれ、部員の一人が盗んだこともわかっていたが、それも秘密にしておかなければならない。
19
鳥専門の獣医に手術をされて、翼を失って飛べなくなってしまったが、まるで羽ばたくようにひどい肩こりが治り、スキップして彼女は帰っていた。
20
谷の冬は寒さに閉ざされ、身動きが取れず、自動販売ボタンで注文すると、山を滑降して届けられる物は凍りつき、時々、死者が出る。
21
子供ながらに、美味しくなーれ、と魔法をかけた彼は、時を経てその魔法がかかり、世界中の人々から、ごちそうさま、という魔法の源をもらっている。
22
学級崩壊のあった学校の前を通りかかると、教室が丸々吹っ飛んでいて校舎に穴が空いていた。
23
時間泥棒が現れて、みんな時間を貯蓄し始め、歩く速さも考えることも今までよりも速くなって、いざ貯めた時間を使おうとしたが使い方がわからず、焦っている。
24
危険なあの角を通る時、もしそれをかわすことができれば、赤く染まった伝説の生物ユニコーンと対面できる。
25
次々と運ばれてくる遺体を解剖すると、フランケンシュタインのように不可解に繋ぎ合わせられたもので、どれも寂しがり屋たちが、孤独を解消しようと体を分け合っていたことがわかった。
26
一晩、甲冑を着て警備に当たっていた騎士は直立不動のままで、甲冑の中には誰もおらず、真夜中、天から騎士のいたところへ降り注ぐ光を見たという人がいた。
27
夏への扉は、熱くて触ることもできず、誰も向こうに行った者はおらず、とうとう扉が溶け始めている。
28
一緒に出ようと約束して、女は長いからとゆっくり浸かっていたらのぼせ、男はきっと早いからと早々外で待っていたら湯冷めする。
29
宇宙遊泳中に遭遇した酸素が欲しいと言うロボットを地球に案内すると、緑に感動した森の中で黒い涙を流してから数世紀も自然を守り続け、たまたま森の中で出会った人に、初めてモリノアイと名乗り、人となった。
30
少女が小川を通りかかると、海底の住まいを明るくする光を求めていた人魚が休憩していて、話を聞いた少女は、家から持ってきたマッチとろうそくを手渡した。
一文物語365の本
2017年11月の一文物語は、手製本「舞」に収録されています。