一文物語365 2015年8月集

一文物語365 8月

一文物語

1

ビビッと雷を受けて、立派に樹立した大木が、鬱蒼と生い茂る草むらの穴に倒れ入る。

2

男はまだ離れたくないと、目をうっとりさせながら手を振る彼女の元にすぐ戻ると、彼女はキレイにコーティングされた自分の爪に見惚れていた。

3

夕刻の波打ち際を散歩していると、新しくお店がオープンしたのでぜひ来てくださいと、人魚の客引きに会ったが、そんな場所に行けるわけがないと地平線に背を向けた。

4

寝ぐせだらけで、半分閉じかかったまぶたの、口を微刺激の泡をたたせている自分の顔を映すその鏡は、そんなに無理をするなと言ってくれているのだろうか。

5

空に打ち上がる光を見に集まる人々の中にいた彼は、ひっそりとした帰り道の街灯を見上げて、そこにも光に寄せ集まる夏の風物詩にきらびやかな記憶が上書きされた。

6

いつもどちらが先に行くのかを決めたがる夫婦の最終決闘は、墓場の前だった。

7

別れた彼が新聞に載っていて、彼女はその記事に驚いだが、静かに微笑んだ。

8

月との電話料金は格段と安くなったが、まだ冥土からの配送料金はまだ高い。

9

目隠しした女の子が、十回その場で身を回し、棒を振り下ろすとスイカが割れ、海も割れ、星も割れた。

10

グルグル回るコーヒーカップの中で目を回していると、姫のお茶の時間らしくゲージの外から手が伸びてカップが持ち上げられた。

11

彼女は自室で、一日かけて明日一日分自分を動かすゼンマイ式機械のゼンマイを巻き、翌朝から気合の入った状態で翌日分のゼンマイを巻く日々を過ごしている。

12

デパートの片隅に、動揺した男が大きな箱の包装を頼みに来て、黙って箱を包んでやったが、おそらくその中に死体が入っているのだろうと、確信した。

13

離れ離れになった彼から、長く押さえきれない気持ちをトイレットペーパーに書き込んで送ってくるが、使うには抵抗を感じるほど黒く、他人に見られるのも困るので、日々、刻んで燃やしている。

14

店頭に、その下着をつければ美しく見えると言わんばかりに着せられたマネキンは体の中から輝いていて、それを勝負下着として迎えたその日、恥ずかしさのあまり電気を消してもらっても、体は光っていた。

15

秩序の花を見て、きれいと言わなければならないその社会畑で、彼女は土混じりのお茶を配り終えた後、泣きながら花を抜き始めた。

16

彼女が知識を溜め込めば溜め込むほど旦那は肥え、柔らかく厚い壁に阻まれて彼女のことを見向きもしなくなった。

17

一年ぶりに再会で、愛の色が変化したことをダムの放水がごとく口から言葉を吐き流したら、夫は濁流に流されたようにどこかにいなくなってしまった。

18

あちこちで誰もが笑顔で無意識に安全剃刀を振り回している。

19

監獄で女はくじ引きでハズレばかり引くのが人生だと自分に言い聞かせていた。

20

視野が狭いと部下を怒り続ける上司は、離婚裁判に立たされ、改めて妻を見つめな直さなければならない。

21

どこで荷物を取り違えたのか、宿に着いてスーツケースを開くと木乃伊が入っていた。

22

この星には、ネットにつながってゾンビになったモノしか徘徊していない。

23

クジャクに羽を広げて求愛されたその女は、仮に一緒になったとして、クジャク人間か人間クジャクになるのか、どちらにしろ檻の中ではゴージャスになれるのではないか、と想像した。

24

仕事ができないと、クビになった彼は木刑を言い渡され、どこぞの山の中で木にされてしまった。

25

台風の目に飛び込み気流の弱さにつまらなさを感じた宇宙人は去って行き、それを人は真似て海の渦に飛び込んで上がってこないんだろうと、左右に回転する泡と渦を飽きもせず見ることのできた洗濯機と少年の気持ちはもうない。

26

真っ暗闇の中、マッチの火がロウソクに移らず、何度も懺悔をしながら残りのマッチを使い果たして、眠りについた。

27

記憶をなくした女が、新聞ばかり読んで、他人数多の過去だけを記憶している。

28

衝撃的なそのコンサートは、トランペットソロが始まると、音の良さと勢いに客席が吹っ飛び、トランペット奏者は反動でステージの壁を突き破っていなくなってしまうのだ。

29

つまり、ステージ上で光に照らされて歌い踊る彼女たちは幻影なのだ。

30

あの人の生き方を真似したい彼は、あの人と同じになれる薬をもらってあの人になると、仕事を終えた後、世界征服を企む悪の王であったらしく、彼はあの人とどちらが本物か勝負することになってしまった。

31

ベンチで青年が燃え尽きている。

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一文物語365の本

2015年8月の一文物語は、手製本「月」に収録されています。

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