1-6.明日架の赤い計画 [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]

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Web連載小説「理想水郷ウトピアクアの蝶」第1章セリカ・ガルテン 6.明日架の赤い計画
前書き

部屋に飾られていた大きな絵は、毒された大地を浄火する炎の絵だった。

予言はもう一つあり、新しい島が誕生する。明日架は、その島を手に入れ、大地の浄火を計画していた。

目次

炎の絵

 赤い絵と青い絵は、両手を広げても抱えきれないほど大きく立派な額に収められていた。

 ほとりが座っているソファからでも、炎と水の絵の迫力は伝わってきていた。

 炎の絵をじっと見つめていると、炎に包み込まれてしまうような錯覚を覚えるほどだった。

「インボルクの浄火」

 明日架は、ツバメに肩をつかまれていたのもかまわず立ち上がり、絵の前に立った。

 まるで明日架が炎の中に立ち、笑顔で炎をまとったように、ほとりには見えた。

「インボ……」

「インボルクの浄火。この絵のタイトル」

 明日架は絵の横に移動した。火を従えて額の先へと消えていくかのようだった。

「光の神ベレノスによる光で、大地を浄火しているところ。この絵とそっちの絵は、セリカ・ガルテンの創始者であるセリカとナイアを描いたものとされている。

 二人が思い描くウトピアクアを作る時に使った力の絵。

 セリカが行ったインボルクの浄火によって、毒されていたこの島は、セリカ・ガルテンとして生まれ変わった。

 しかし、ナイアはインボルクの浄火を阻もうとした。そっちの荒れ狂う水を操っている絵がその時のナイアの様子。

 まっ、最終的にはセリカが勝って、水で生命を脅かそうとしたナイアを危険とし、二度と水に近づけさせないようナイアは地底に葬られてしまった」

 伝説の話、と明日架は最後につけ加えるのかと、ほとりは思っていたが、その言葉は出てこなかった。

もう一つの予言

「ほとりがやってくる予言のほかに、実はもう一つ予言された」

 また別の誰かがここへやってくるのかとほとりは予想した。

「それは新しい島の誕生」

「島の誕生?」

 ほとりは、海中からマグマが噴出して少しずつ陸地が広がっていく想像をした。

 それを見れば島ができるかもしれないと思ったが、その現象もなく、見てもいないのに誰がわかるのだろうかと、ほとりは首を少しかしげた。

「今から三回目の満月の夜、島がこの世界のどこかに現れる。私は、その島を私の島としてウトピアクアを築きたい。

 でも、誕生したばかりの島は、必ず毒されている。そこから、理想水郷を作り上げる試練は始まっている。

 過去様々な方法でウトピアクアが作られてきた。私はこのセリカ・ガルテンができたように、インボルクの浄火を行い、ウトピアクアを築く。

 それに向かって、私はインボルク計画を立ち上げた」

「その計画に私も……」

 ほとりが言うと、すぐに明日架が笑顔で強く頷いて見せ、ほとりに近づいてきた。

「察しがいい。さすが予言の子」

 ほとりの目の前で明日架は視線を合わすようにかがみ、ほとりは両肩に手を置かれた。

「ほとり。あなたの力を貸して。そして、私が島を手に入れたら、あなたは私の跡を継いで、生徒会長となる。もうこれは、予言されていること」

 ほとりは、二度ゆっくり前後に首を振った。でも、それは自分をそう納得させるためだった。

「はい、わかりました」

道筋

 予言はともかく、その道筋が書かれている分、何もわからない世界で、何も考えず、楽に進めそうだと思ってしまったのだ。

 とはいえ、元の世界に戻ることをあきらめたわけではない。

 歓迎された状況で、この二人が、戻る方法を知っていてもそう簡単に私に教えてはくれないだろうと、ほとりは考えた。

「ほとり、ありがとう」

 ほとりは、明日架に抱きつかれた。

「ん、んんっ」

 ツバメが口元に手を当てて、咳払いした。

「会長、そろそろ、経過報告を聞きに行く時間です」

「あぁ、そうか。また詳しい話はおいおいする。もう今日は夕食までゆっくりするといい。ほとりにも部屋を用意してあるから、そこで休んでいて。夕食は一緒に食べよう」

 明日架にまじまじと見つめられながら言われた。

「は、はい」

「私はこれから仕事に行かなきゃならない。あとは、ツバメに案内させるから」

「はい……」

「今日は、どこを見ればいいんだっけ?」

 明日架は振り返って、ツバメに聞いた。

「今日は、海水淡水化実験島とオアシス実験島です」

 ツバメは、脇に抱えていたファイルを開くことなく言った。

「えー、海淡島? さっきほとりを迎えに行ってきたところ。また行くのか」

「はい、会長のお仕事ですから。そろそろ行かないと遅れます」

「はいはい」

 明日架は、ついさっきここへ入ってきた大きく開いた窓に向かっていく。

「あ、あの」

 ほとりの声で、明日架とツバメの視線が向けられる。

「なに?」

 ツバメが答えるより早く明日架が聞き返してきた。ツバメの開けた口がゆっくり閉じられていくのを見た。

「この絵は、誰が描いたものなんですか。どちらも同じ人が描いたように見えるんですが」

「ほとりは絵に詳しいの?」

「絵を描いているので、少しは」

「へー、そうなんだ。でも、残念だけど、誰が描いたのかはわからないんだ。創始者たちを描いた絵だから、描いた人も同時代の人。もういないだろうね」

「そうですか」

「ほとりは、生徒会所属だから、自由にここに見に来ていいから」

 明日架は、そう言って窓から飛び出ると、黒い羽を広げて宙を飛んで行ってしまった。

 もし、描いた人がいるなら会ってみたかった。そして、どうしたらそんな大胆にかつ繊細な線と色使いで、絵が描けるのか聞いてみたかった。

 自分もそんな風に絵を描いてみたいとほとりは思った。特に、水の方を。

「ほとりさん。それでは、これからあなたがここで生活していく部屋に案内します」

 ツバメは、せっせとドアの方へと歩いて行ってしまうので、ほとりは慌てて立ち上がった。

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1-7.ツバメの忠告

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