3-3.ピラミッドの水 [小説 理想水郷ウトピアクアの蝶]

Web連載小説「理想水郷ウトピアクアの蝶」第3章 ピラミッド島の腐死蝶 3.ピラミッドの水

ほとりが島に来た理由やインボルク計画の話をすると、ミズホは表情を曇らせ、眠ってしまう。

用事を頼まれたマノンとともにほとりは、ピラミッド内を降下していく。到着したところは、天井から水が滴り落ちていた。

弱点

「それはどういう意味ですか」

 ほとりは質問して、その答えをすぐ想像できた。

 ――腐死蝶デフト

「デフトがゲートをくぐってセリカ・ガルテンに侵入するかもしれない。でも、まだあそこには、水があるから平気」

 マノンの感情のこもらない話し方が皮肉に聞こえた。オアシスの水がなくなれば、そういうことなのだろうと。

「デフトは、水に弱いってことですか?」

 ほとりが聞くと、マノンは無言で頷いた。

 マノンが湿った砂漠をむさぼるデフトを追い払った際、水を使って追い払ったのにも納得がいった。

 しかし、デフトが湿った砂を口にしていたことに疑問が残っていた。

「そういえば、名前を聞いてなかった」

 ミズホが聞いてきた。

「浅葱ほとりです」

「マノン。ほとりに水を」

「はい。でも、ここには、これ一本しかないので、下から取ってきます。さっき、デフトに使ってしまったので」

「そうか。悪いな」

「いえ」

「私も手伝います」

 ほとりがマノンの前に立った。

「飛べないのなら、足手まとい」

 ほとりは心が苦しくなった。羽があるのに飛べないのは、この世界では異常な状態なんだと痛感する。

「ほとり。セリカに来て、どのくらいになる?」

 ミズホが聞いた。

「ひと月、いえまだ二十回ほどしか月は見ていません」

「そうか。セリカに来たら、ほどなくみんな飛べていたと思うが。なぜ、そんな君を生徒会は、ここへよこしたんだろう」

「それは、私が予言の子、だからだと……」

降下路

 ほとりは、新しい島の誕生にあわせて予言された予言の子であること、自分も理想水郷を作りたいと、他のウトピアクアを自分の目で見ていることを伝えた。

 そして、現生徒会長がインボルク計画を実行するために、蝶人を集めていることを話した。

「インボルク計画か……」

 ミズホは、苦笑いをしながら床に視線を落とした。

「ミズホさん……」

 マノンが悲しそうに声をかけた。しかし、ミズホは下を向いたまま黙ってしまい、火が揺らぐ音しか聞こえなくなった。

「え、あの」

 沈黙に耐えきれなくなったほとりが、声を生んだ。

「すまない。しばらく横になる。マノン、ほとりと一緒に水を取ってきてくれるか」

「わ、わかりました」

 ミズホは、傷んだ薄い生地が敷かれた石台に横になった。マノンが足下から布をかけてやった。

 そして、ミズホの頭から少し離れたところに、水の入った瓶をそっと置いた。

「ほとりさん。行きましょう」

 部屋の一角の床に、四角く穴が空いていた。

 ほとりはマノンに後ろから抱きかかえられ、その穴を通り降下していく。下の階は壁にたいまつが一カ所だけ灯り、薄暗かったがひと回り広く見えた。

 マノンは、そのまま次の穴を通過していく。どの階にも床に穴が空いていて、飛んだ状態で降下していけるようになっていた。

 階下に行けば行くほど、部屋が広がっていくが、明かりが灯っていたりいなかったりして、よくわからなかった。

 階段はないようだった。

 ここは蝶人の世界。飛ぶことを前提に作られている。だから、マノンは、飛べないほとりが手伝うと言ってもそれを拒否した意味がわかった。

 マノンがやさしく降ろしてくれたフロアは、とても涼しかった。地上なのか地下なのかもはやわからなかった。

 砂漠にいるようには思えないほど、空気が湿っていて、奥に行くほどさらに冷える感覚があった。

 たいまつに沿って歩くマノンの後ろをついて行った。

 天井から伸びる突起から、水滴が点滴のように落ち続けていた。その下には、水が溜まっていた。

「どうして水が」

 ほとりは、言わずにはいられなかった。

ピラミッドの水機構

 マノンは、何も言わずに脇に並べてある瓶を両手に一つずつ持ち、溜まった水の中に沈めた。

 ポコポコと瓶の中から空気が押し出され、水が瓶の中へと溜まっていく。

 ほとりも両手に瓶を持った。握ったことのある瓶だった。バックウェーブ島の水工場で、いやというほど見た瓶だった。

 マノンを真似るように、水を瓶に入れる。

「この水は地下水なんですか」

 ほとりは、答えが返ってくることを期待せずにマノンに聞いた。

 マノンは、次の空き瓶を取り、また瓶に水を入れる。

「オアシスの水」

 マノンの声が反響した。

「あそこからここへつながっているですね」

「つながってはいない。オアシスから運んできた水をピラミッドの水機構に流して、精製したきれいな水」

「ピラミッドの水機構?」

 ほとりは彼女の言っている意味がわからなかった。からかわれていると思った。

 しかし、マノンの顔を見ると、たいまつの明かりで揺らいでいたが、ほとりをからかっているようには見えなかった。

「詳しい仕組みはわからない。ただ、水を上からピラミッドに流し込むと、岩やその隙間を通ることで蒸留されていき、この水となる」

「なぜ、わざわざそんなことを。オアシスの水はそのまま飲めないんですか」

「飲めなくはない。ただ、この島を維持するには、水を流してピラミッドの機構を動かしておく必要がある」

「この島は、どういう島なんですか」

「私がセリカにいた時、この島は森や水も普通にあり、近代的都市機構も備えた最先端の実験島のウトピアクアとされていた。

 海水を真水に効率的に変換する実験や、汚水からきれいな水にする実験、水を小さな固形にする実験」

 ほとりは、このことをケイトに伝えたいと思った。きっとケイトの実験に役立つのではないかと思った。

「しかし、裏では、アンダーグラウンドな実験が行われていた」

 マノンが水いっぱいになった瓶を引き上げ、したたり落ちた水の音が広がる。

 ほとりは、それが原因でこの島が砂漠になったとすぐにわかった。

「どれも上手くいかず、地下に毒に汚染された水が漏れ出し、手のつけようがなくなった。

 歯止めをかけるために行った計画も失敗に終わり、見ての通り、地上は一瞬にして砂漠化した。地上に残ったのは、島の中枢のピラミッドだけ」

 言い終えたマノンが、手の止まったほとりの瓶を見つめた。

 あ、とほとりは瓶を引き上げ、空の瓶を手に取った。

「何本、必要ですか」

 ほとりが聞いた。

「あなたが、持てる分」

 マノンは、黙って、また瓶を水に沈めた。

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