一文物語365 2015年6月集

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一文物語

1

ひとつだけ月に置いてあるイスに座ったものが、次の月の王となり、いつ地球人がやってくるか、月の裏側で宇宙人が観察している。

2

ぼけてしまった老人は、夜中ベッドを抜け出して、郵便と勘違いして、今まで盗んだ紙幣を家々にポストに入れ回り、お金が盗まれたと騒いでいる。

3

作家の夫婦は、結末が訪れないように白紙の本を見つめ、二人だけの物語を語らっていたであろう様子に、抱き合って死んでいた。

4

花が好きだった彼女のまだ火照りの残る焼き終わった彼女の骨は、職人が色付けしたような花柄模様だった。

5

言葉を自分で作り出せない彼は、あらゆる本の言葉を抜き出して繋げているので、真っ当な内容の自然環境の言葉のあとに官能小説展開になる。

6

目を閉じてこんな場面を思い浮かべてほしい、と書かれた一文の後の内容は目を閉じているので読むことができず、ただ真っ暗な世界が広がっていた。

7

無念の事故死した彼女の遺体を木の下に埋めると、怨念が木に宿り、髪の長かった彼女を思い出させるように木の根が地面を走り伸び、アスファルトの道を破壊し尽くした。

8

毎晩、座敷童がくすぐってくるので、おかげで寝不足である。

9

土を掘って土の中で生活し、巨万の富を得ていた彼は、外に出ると一瞬でこんがりとした肌色に変わり、天井のない世界で羽を得たように富が飛んで行った。

10

行く先々でいくつもの人柄を演じるのに疲れてしまった彼女は、化けの皮を剥ぎ、最後に自分の肌すらも剥いで、自らの痛みを感じて笑顔で幸せな死を遂げた。

11

生命科学が発展しているこの星でも、人口が減りつつあるため、あらゆる飲み物に媚薬が密かに入れられていることをまだみんなは知らない。

12

壱の族が弐の族に奇襲をかけようとする頃、弐の族は参の族に奇襲をかけようとし、参の族は壱の族に奇襲をかけ、それぞれ陣地を移動するだけに終わり、案の定、戻る時期も同じ頃だった。

13

乳液すらはじく肌をもつその女性は、周囲から羨ましがられる一方で、触れてくる男を弾き飛ばしてしまい、愛する男と抱き合うこともできない。

14

空飛ぶ船から垂れた甘い餌に食いついた人々は、ことごとく天高く釣り舞いあげられ、どうなるかは誰も知らない。

15

よく血が抜かれてしまうと不吉な噂のあった建物の解体あとに、どうしても抜けない杭があり、解体業者は悔いが残ったが、その杭は残された。

16

花火が打ち上がるたび、多くの人が夜空を見上げて有害な煙と千差万別の光に嘆息して空気を濁しているすきに、少年は明るくなった足元で小虫の殺生を繰り返した。

17

社会仕事に疲れて帰宅してホッと一息ついた女は、まとめていた髪をほぐすと解放的になった髪はそれぞれの方向に進みだし、それすら抑え込むことのできない自分に嫌気がさし、坊主にしたことを機に世俗から離れることにした。

18

念願の車を手に入れた彼は、ついつい嬉しくなってその車を作り上げた人々に加え、車を解体してでも部品ひとつ製造した人々を調べあげて、感謝の手紙を送った。

19

山火事が数日続いていて鎮静化する気配がないので、世界中から雨男と雨女を呼び寄せ、火はなんとか消えたが、集まった男女の間に火がついた。

20

花びらが開くとその中心からアンテナが伸びて電波を発し、コントロールされた虫がやってきて、花粉をつけられて、次の花に飛ぶように制御されている。

21

人類が滅亡し真っ暗になった世界で唯一生き残ってしまった男が、たまたま手に掛けた扉を開くと、中からはまるで生きる希望を感じさせる光りが放たれ、しかし、その冷蔵庫の中身は何もなかった。

22

空の棺桶が人を欲している。

23

その一文は、もの足りずにプルプルと震えて二文に増殖したがっている。

24

彼は隠れて、一人、二人、三人と愛でているが、ついに一人に絞る時が来てしまい、苦悩する彼の頭の中では、二人が劇的に死んでくれればと考えている。

25

貧しかったが美しかった彼女は、眠り姫コンテストに出場して優勝を果たした瞬間に、彼女を買った男の元で、なに不自由ない生活を送ったが、毎晩眠った姿を常に見られ、抱かれることはなかった。

26

予定時刻に起こすよう彼女に頼んでおいたら、銃口を鼻穴に突っ込まれて、目を覚まさないと睡眠を打ち砕かれるか永遠に眠るか、すぐに決めろと起こされた。

27

彼が二年目の旅を終えて家に戻ってくると、描いたこともない絵が何枚も飾られ、彼の家が誰かの手によって彼のでっち上げられた生涯をなぞる展示場になり、多くの客が詰めかけていた。

28

家に植わっている生命を宿した木から赤子が生まれ落ち、その赤子が成人する頃、ひととろに腰を落ち着け、足を地中に埋めて根を伸ばし、腕を広げて枝を生やし、やがてどこにでもあるただの木となる。

29

世紀の大発明と発表された悪者を自動的に捕まえるロボットの設計図が何者かに盗まれてしまい、しばらくしてロボットが盗人を捕まえて、帰ってきた。

30

年をとりたくないと思い続けていた彼は、細胞にそう言い聞かせると、人生を半分過ぎた時から若返り始め、終いには胎児にまで戻っていった。

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一文物語365の本

2015年6月の一文物語は、手製本「月」に収録されています。

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