一文物語365 2015年7月集

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一文物語

1

自動販売機でお金が買える時代になり、投入口に自分の臓器を入れる輩も出るなか、新しい教えを布教させる資金が欲しかった彼は、投入口に教えを語りかけると、札束の排出が止まらない。

2

時代がうねるたびに注目を浴びる俳句を読んだ歌人の女は、そんな意味はないと憤慨し、都会から遠ざけるために、山の中で呪われたように一心にその句だけを紙に書いては山中に撒き散らし、いつしかそれは呪いの句として、注目を浴び続けることになった。

3

救助船が救助から戻ってくることがない中、また宇宙から救難信号が届き、地球から救助船で向かったが、救難信号の発信源がわからず、広大な宇宙でその救助船も遭難してしまい、救難信号を発信した。

4

ダジャレ好きの女性が、自分の恥部をセミで隠して、裸の写真を発表した。

5

地球の空気屋とそう自分を呼んでいる彼女は、取材を受けている最中もシュコシュコと大地に突き刺さった空気入れを上下させて、頻繁に空気が抜けていく地球風船に空気を送り込んでいて、彼女が取材者のしつこさに苛立ちを感じ始めた頃、突如地面に空気穴が空き、取材者が吹き飛ばされていった。

6

この雨を降らしている分厚い雲がなくなったらね、星を網ですくい取るの。

7

彼は道に迷ってしまい、パンがなかったので、金貨を落としていったが、どうも見覚えのあるところを何度も歩いては、金貨を落として行った。

8

苦しんでいた男が、何もかもから解放してくれる御札をもらって貼り付けたら、会社から何か言われることはなくなり、周囲からの目線も気にならなくなったが、買い物で会計を済まそうと店員は男を認識せず、男の持つ物がかってに動いていると騒がれている。

9

大きな古時計の金の音の響きが悪いと気づいて、その時計を開けてみると、子供の木乃伊がうずくまっていた。

10

その白紙の本に願い事を書くと、願いが叶うというので、本当に願いが叶うのか試しに、テストと書いて見ると、その本全ページがあらゆる試験問題を網羅し、もう願い事を書く場所がなくなってしまった。

11

宇宙飛行士の男が、船外活動中に自分と船を繋いでいた命綱が切れた時、地球で男の妻から赤ん坊が産み落とされ、へその緒が切られた瞬間だった。

12

その怪物は、口から次々と言葉を発すると形あるものを破壊し、鏡の前で自分の姿を見た時、怪物少年は全身血だらけになって自分が傷ついていることを知り、自分で巻き上げたいっこうに沈まない粉塵舞う中で痛みを抱えてもがいていくことになった。

13

記憶をなくした舞台女優が、本人役でいわれのない自分の人生を、演出通りに泣いて笑って再現し、台本がないと生きてはいけない。

14

暑い日にアスファルト冷却装置が稼働し始めると必ず車によるひき逃げ事故が多発する一方、歩行者天国は寝転がる人々のひんやり安らいだ表情の川が作られる。

15

美少女戦士は戦いを終えると、肌の手入れや整体に行き、傷ついた体を癒やし、戦闘制服の修復におわれ、それが毎週毎週繰り返されるのである。

16

押し通すことに余年のないその男は、女を落とす時も、仕事のことも、飛び込み営業先の呼鈴も、はたまた多額の借用書の押印も、押せばなんとかなると、人生を押し進み、最後に世界の命運を分ける爆弾のボタンを押した。

17

ポテトチップスがプールいっぱいにぶちまけられ、子どもたちが泳ぎながら食べている。

18

今日は品評会だと朝から鏡の前で、まつ毛の代わり生えてきた目元の松を最後の刈り込みをし、ここ数ヶ月気合十分の手入れで自信を持った彼女は玄関を出て行くと、悲鳴を上げられた。

19

飛んでくるシャボン玉に舌を伸ばして取ろうとしているカメレオンは、何度も試みた結果、舌が伸びきってしまい、だらしなくなっている。

20

誰もいない静かなところで男が静かにしろと叫んで、こっちを見てきた。

21

のんびり浜辺で日焼けをしていると、どこから香ばしいイイ匂いがしてきたと同時に、体が突然痛み始めた。

22

建築家の彼とデート中の彼女は、ヘリコプターに乗って彼が設計した建物を上空から見ていくと、I ♡ YOU の形に並び、遠回り過ぎるが大きな告白を受け入れた。

23

世界の海の分だけ、悲しみがあり、また笑いがあって、そこに涙を流してきたのだった。

24

彼女は、執拗に追いかけてくる男を振り切り、定常にかつ一直線に愛を求めるゾンビとなった彼に捕まった。

25

彼女は飛行機に乗るため、早朝から道中急いでいたが、老いた天使が突然落ちてきて見過ごすこともできず介抱すると、お礼にお礼にお礼にと人間臭く感謝の言葉を口からでまかせのようにしゃべりまくられ、彼女の怒りも爆発寸前であったが、予定の飛行機に乗れなかったことで彼女は生き延びた。

26

草原で扇風機を回していると、トンボが目を回して次々に落ちていく。

27

彼女の髪は正直者で、体調が悪いと髪は荒れ、職場では上司の薄い頭を彼女の髪が覆いたがるのを抑えこみ、時にたいくつだと思ったことを文字にしてしまう髪は、ついに隣でうるさいいびきをかいて寝ていた彼の首を締めてしまった。

28

創生期に宇宙人が飛来し、文明開化の卵を置いていき、動物がじっとその卵を温めていたため、卵は割れることはなかった。

29

少年が砂場で無邪気に砂いじりをいている頃、地球の真裏の大地はその少年の手でこねくり回されている。

30

うだるような暑さでアスファルトにとろけて垂れる彼のアイスクリームと脳みそ。

31

投げ落とされたコインが裏表どちらを向こうが捕まった彼女は生き、コインはコインとして存在し続け、表が出ると縛られている彼は死を間逃れないわけだが、コインは表を彼に向けて奇跡的に立ったので、彼はありったけの空気を吸い込み続けた。

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一文物語365の本

2015年7月の一文物語は、手製本「月」に収録されています。

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