一文物語365 2015年10月集

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一文物語

1

上に進むしかないハシゴを行列になって進んでいると、急病の女性を抱えて降りてくる男性たちとどかない人たちの間に交渉の余地はなく、時間に迫られ段を登らなければない人類の使命を揺るがすことはできず、その女性を神に願って投げ落としてしまった。

2

旅行を楽しみに、急いで仕事から家に帰ると喉が渇き、笑顔の妻から毒入りと描かれた水の入ったコップを出され、人一人が入りそうな旅行カバンが目に入った。

3

粗雑になってしまう電波に乗った彼女の声を麗美な姿が思い浮かばせるほど純白な電波を作っていたら、その電波に恋をして誰の声も混ぜたくなかった。

4

とにかく遺影の前で楽しそうにしていると、笑ってくれる。

5

彼にふられ、帰り際に雨にも降られ、彼女の溢れ出る涙でベッドはウォーターベッドになり、その寝心地良さも相まってぐっすり眠った翌朝、空と心は晴れていた。

6

突如発生した彼女の目の曇りは、腹黒さの濃度に比例している。

7

夜のバス停で別れを惜しむ少年少女のキッスを通りがかりに見た魔女は、爆発の呪文を唱えると、その日の最終バスはやって来なかった。

8

少し前まで積み木の山を壊していた女の子が、いつの間にか富士山を跨いで闊歩するようになっていた。

9

白蛇に足元から胸まで喰われた長いドレスを引きずり進む花嫁は、ヴァージンロードを染めて行く。

10

手紙に花びらを挟んで送ったら彼女は喜んでくれたので、彼はもっと喜んでもらおうと花束ミサイルを彼女目がけて発射した。

11

一筆書きを始めたらどこでペンを放せばいいのかわからなくなり、いつの間にか日本を一周した線を書いていた。

12

水たまりに落ちて広がる雨の波紋を見るのが好きな少女は、雨がやんでしまうと悲しみ、自分の涙でまた波紋を作るのだった。

13

彼はサイコロと人生ゲームボードをいつも持ち歩き、事あるごとにサイコロを振っては自分の人生をそれになぞり、サイコロを振れなくなった時、人生を上がると決めている。

14

捨て焼かれてしまうんだったらと、本たちは元の木に戻ろうと重なり合って、黒いインクの樹液を流している。

15

アンテナに巣を張りめぐらした蜘蛛は、獲物がかかるのを気長に待ちつつ、強度に電波を受信して演歌を流すラジオ番組に陶酔している。

16

今日の宿題はありませんが、先生はみんなより先に向こうで待っていますから、再会した時どんな人生を過ごして来たかを発表してもらうので、それがこれからの宿題です。

17

煙は風船に入れて出さなければならず、煙突や車、タバコの煙も、煙は減り、あちこちからカラフルな風船が流れて行く。

18

彼は、罰としていくつかの毛糸玉と編み棒を手渡され、裸で極寒の牢に閉じ込められた。

19

黄色い声援で心に火がついた彼だったが、背骨がロウソクだったらしく、たちまち涙を流して溶ろけ倒れてしまった。

20

暴れ馬を乗りこなそうと練習する少年がいる草原で、バッタを乗りこなそうと練習する小人の少年は、彼にライバル意識を燃やしているが、バッタは馬に食われまいと必死なのである。

21

地球を侵略した宇宙人が長年住み続け、次第に自分たちが宇宙人だったことを人間は忘れてしまっている。

22

沈んできた厳つくも男前の石像に、人魚は体をクネらせ恋してる。

23

包帯でぐるぐる巻きにして動けなくなったことを怒って、目覚めたミイラが追いかけてくる。

24

拳で人を殴り続けてきた彼は、拳が人を殴るためだけのものだと思って生きていたところ正月に餅つきと出会い、それからの生涯、餅を拳でつき続けている。

25

彼女の髪を結う可愛い玉の付いたリボンは、髪を早く伸ばすための鋼鉄の重りだという。

26

若き人々は恐れをなして全知を得ようと電子接続し続けていって、頭がカブのように肥大化しても潤いはいつになっても満たされず、次第に電子畑の光眩しい土に頭を埋めていく。

27

失踪した兄を追い、疲れを取るため温泉につかっていると、一瞬湯煙が兄の形姿に見せ、揺らぎ消えて二度と見ることはできないと涙した。

28

若き男女がいっときの別れを惜しむように同じグラスの飲み物を二本のストローで飲み終えた後、男は水のある土地を奪う軍事作戦に向かった。

29

熱苦しいファンの一人が生歌をもっと近くで聞きたいと、歌手の口の中に耳を突っ込んだ。

30

子供ブルドーザーがちり紙の山をどんどん切り崩していき、母親の顔は困り果てていたが、荒野の中に太陽のような笑顔があった。

31

レコード盤がその音楽を響かせてシュルシュルと空を切っていき、国境線を飛び越え、人々の心の壁を溶かしていく。

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一文物語365の本

2015年10月の一文物語は、手製本「花」に収録されています。

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