一文物語365 2016年11月集

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一文物語

1

若くして母になれなかった女は、その生涯を終えるまでずっとシャボン玉を吹きつづけていた。

一文物語365 挿絵 シャボン玉

2

彼は、あっ、このズボンは以前に、と恐怖の記憶がよみがえり、波打ち際から慌てて砂浜を駆け戻るがまるで何かに引っぱられているかのように足を踏ん張ったまま止まり、溺れかけた時に履いていたズボンが海へ引き返そうとしているので、脱ぎ捨てたら、海に走り去っていった。

一文物語365 挿絵 ズボン

3

身の丈より大きな草がゆらゆら揺れ、空気もゆらゆら流れて、光が歪み落ちてくる空をくじらが飛んでいる道で、少女は楽しかった一日を思う小さな歌を歌い、家まで歌の詰まった気泡が続く。

一文物語365 挿絵 海面

4

飼っている目の見えない鳥に餌を与えるため、日が暮れる前に遊びから帰ってきた少年は、鳥にまたがって手綱を取り、空から目を凝らして夕日の草原を見下ろしている。

一文物語365 挿絵 鳥

5

約束の時間に西の山を眺めていると、彼女がきっと最後の力で弾いているピアノの音色が涙粒となって宙を転がってきて、夜を迎えるとともにそれは静かに星となった。

一文物語365 挿絵 山

6

氷の大陸で群れから遅れてはぐれた一匹のペンギンが、急いで群れを探しているうちに進化して空を飛べるようになって、群れを見つけたが、空から下りてきたペンギンを仲間には入れてもらえなかった。

一文物語365 挿絵 足跡

7

記憶を写真にしていた女は、いまさら自分の中身には何もないと恐怖を覚え、写真を解体屋にもちこんで、バラバラになったテーブルの天板、食器、料理、立ち昇るゆげを頭の中に埋め込み直している。

一文物語365 挿絵 食べ物の写真

8

割ることができない硬すぎるせんべいに雷が落ちて割れたが、小さくなろうが硬いままで噛み砕くことができず、歯に電気が走った。

一文物語365 挿絵 せんべい

9

長年使っていなかった部屋のドアを開けたら、そのドアから女性の金切り声が聞こえた。

一文物語365 挿絵 ドア

10

雨が降ってくると、少女はいつも窓を開け、母に怒られてしまうが、妖精を雨宿りさせている。

一文物語365 挿絵 窓

11

あと五分で、全世界のビルを倒していくドミノ大会が開幕し、海を飛び越える際のロケット仕掛けに期待が高まっている。

一文物語365 挿絵 ドミノ

12

海中に伸びている大きな鎖を引き続けていたら、海が大渦を広げて地中に吸い込まれていき、鎖の先は穴をふさぐ栓とつながっていた。

一文物語365 挿絵 鎖

13

ちょっと騒がしいなと目を覚ますと、いつもより大きく見える月の光りに照らされた部屋の中で、子どものようにはしゃぐ影がふたつみっつ見えた。

一文物語365 挿絵 月夜の窓辺

14

いつも光りを浴びたがって輝くミラーボールのような彼女は、キラキラと反射して本当の顔をうかがい知ることができず、会社ではどこか宙に浮いていて、信頼されていない。

一文物語365 挿絵 ミラーボール

15

こっそり輪になった少女たちの行った悪魔降臨の儀式が正式だったので、悪魔が一人の少女に降臨して、久しぶりに下界で黒い羽を伸ばせると思ったが、取り乱したように慌てふためく少女たちがすぐに悪魔祓いを始めてしまい、いつになっても人間と仲良くしてもらえない。

一文物語365 挿絵 魔法陣

16

満員電車の中で揺れに耐えながら、全員熱湯で満杯になったバケツを抱えてこぼさないようにしている。

一文物語365 挿絵 バケツの水

17

ある寒い日、青年が寒がり地蔵の前を通ると、地蔵が笠やみのを欲して凍えそうな表情をしていたので、青年はお祈りをささげた後、熱帯地域へ地蔵を運んであげると、地蔵は喜んだように全身から涙を流し、のちに汗かき地蔵と呼ばれるようになった。

一文物語365 挿絵 地蔵

18

旅先の空気を思い出として持ち帰ってくる友人の部屋に並べられた瓶のひとつに、天国と書かれているものがあった。

一文物語365 挿絵 瓶

19

海中に続くはしごを下りていくと、いつ海底を通り越したかはわからないが、真裏の海に出た。

一文物語365 挿絵 岸壁

20

彼は、あらゆる空の写真がどこの空なのかついつい言い当ててしまう。

一文物語365 挿絵 空

21

一生分のカレンダーが送られてきて、最後の日付を確認しようかどうしようかと、それだけにただ日々を浪費している。

一文物語365 挿絵 日めくりカレンダー

22

その詩人のうたは新星爆発のようで、詠んだ者同士のこころを繋げてしまい、新世界が創られようとしている。

一文物語365 挿絵 シナプス

23

山積みになった資料を覚えなければならず、彼は今まで溜まっていた記憶を忘却した。

一文物語365 挿絵 書類の溜まった机

24

キリンが、重さに耐えながら涼しい顔で、幾重にもかさねつけた光り輝く首飾りを自慢しながら、街中を歩いている。

一文物語365 挿絵 キリンの首

25

夜風に乗って聞こえてくる魔女の声が途絶えて二日が経ち、たくさんの使い魔のカラスが夕刻の西の空に向かって棺を運び去り、村はものさびしさが残る静かな夜を迎えた。

一文物語365 挿絵 棺を運ぶカラス

26

冒険家が誰も見つけていなかった大きな穴の暗い最深部に到達すると、風もなくブランコが揺れていた。

一文物語365 挿絵 ブランコ

27

かねのなる木から音がする。

一文物語365 挿絵 鐘

28

夜の森で迷った彼は、星の読み方を勉強しておくべきだったと思っていたところ、星たちが矢印の形に集まりだし、それに導かれるように町にたどり着くと、町明かりでもう星たちは見えなくなっていた。

一文物語365 挿絵 矢印

29

赤い満月を見上げた少女は、全身を震わせ、うずくまり、可愛らしいうさぎに姿を変えた。

一文物語365 挿絵 うさぎ

30

一方的に願いごとを言われていた流れ星に感謝を述べたら、もう一度戻ってきてくれた。

一文物語365 挿絵 流れ星
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一文物語365の本

2016年11月の一文物語は、手製本「海」に収録されています。

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