2019年11月24日に開催された文学フリマ東京。
そこで入手したアイテムをご紹介。宵待ブックスの新作小説。
満月の夜、標本が動き出す研究室が舞台の現代ファンタジー短編小説です。
表紙カバーのタイトルは、活版印刷されていて、装丁にも作家のこだわりを感じます。
また、活版印刷された栞カードもセットでした。
大きなアクションはないが、登場人物の掛け合いや、心をもって喋ったり、走り回るキノコたちのコミカルな展開が面白い小説です。
目次
あらすじ
とある研究室の夜勤の日は、決まって、満月の日。
初めて夜勤を迎えた若手研究員の主人公とその先輩が、研究室に保管された標本の管理を夜通しする物語。
この研究室の標本は、満月の夜、なぜか意思を持って動き出す。
毛のある動物の標本が行進をしたり、鳥たちが羽ばたき、さえずき、賑やかなになる。
また、鉱物も転がり動き、乾き切っているはずのキノコも箱を飛び出して、走り回る。
そして、卒倒を何度もこらえる若手研究だったが、意思を持ったキノコと意思疎通を測っていく。
落ち着いた茶色の表紙と遊び心ある装丁
標本が動き出し、キノコが走り出すコメディーのような物語で、私はその話を聞いただけで興味津々でした。
しかし、それを思わせない落ち着いた茶色の表紙。タイトル部分は、活版印刷されて、とても大人なたたずまい。
内容とのギャップがとても遊び心があると思いました。
さらに、面白いのが、表紙の内側です。
作品の中核を担うキノコが、印刷されています。とても丁寧に書かれたキノコ。
裏表紙の内側を見ると、手足の生えたキノコが動き回っていました。
また、本作と合わせた栞カードもセットでした。本作を賑やかすキノコが堂々しています。
この雰囲気の期待を全く裏切ることのない小説本編は、とても面白かった。
動き走り回る標本たちと研究員たちのコミカルな展開が面白い短編小説
夜になると、本来動かない物が動き出す設定は、よくある設定ではあります。
映画「ナイトミュージアム」、はたまた人が見ていなければ動くアニメーション映画「トイ・ストーリー」。
本作「標本室」は、それらのような大胆なアクションはありません。
夜の研究室で起こることを淡々と流れ読んでいくだけ。しかし、そう思わせるのは、背伸びのない作家の立った目線で書かれる文体が、とても自然なのです。
止まることなく、スイスイと研究室で起きていることが、目の前で繰り広げられているように思えます。
標本が動き出そうが、鹿の頭骨から泣き声が聞こえようが、キノコが床を走り回ろうが、違和感がありません。
慌てふためく初めて夜勤を経験する若手研究員と何度か夜勤を経験した先輩とのやりとりも読んでいて楽しい。
全く違うリアクションする二人の掛け合いは、周囲の騒々しさのなかで、さらにはっきり浮いて見え面白いのです。
作者は、本当はキノコより、この夜勤をする二人を書きたかったのではかとも思いました。
とはいえ、物語の後半で、意思を持ったキノコと若手研究員とのやりとりには、なんとも微笑ましく、優しい世界を感じることができました。
まとめ:長編小説としても読みたい短編小説だった!
落ち着いた茶色い表紙の内側に隠された読んでいて楽しい短編小説!
本の装丁も、作家のこだわりを感じる活版印刷されたタイトルと表紙裏で賑わうキノコたち。
めくればめくるほど、作者の偏愛を味わえる一冊でした。
ぜひ、この設定で、長編化したものも読んでみたいと思うくらい、楽しめた作品でした。
本作は、BOOTHで購入できます。
標本室 – 温風 – BOOTH
宵待ブックスのTwitter:@tn_kayo
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