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現実に起こりそうな、一つの未来予測を描いた少年の物語。
本作は、4部作の1作目。映画化もされている小説です。
書店で、3作目の表紙に惹かれて、読んでみたいと思って、1作目から読み始めました。
児童文学作家が描く未来のお話ではありましたが、現代を私がどう生きるかを考えさせてくれる小説でした。
前半は、キャラクターや舞台となる町・コミュティーの設定の説明が続いています。
ほとんど浮き沈みがなく、平坦な展開が続きます。SFのように想像するような未来感は感じられせん。
この流れは、全体で見ると、後半への大きな伏線と言えます。
未来というから、もっと自由に生きる人々が描かれるかと思っていました。
しかし、本作では小さな町の中で、人柄や職種はいろいろあるけれど、ベルトコンベアーのようにわかりきった人生を過ごしています。
それが当たり前の世界で、誰もそれを疑問に思いません。読んでいる私は、少し退屈にさえ感じられました。
逆に、それは、ほとんど不安要素が取り除かれた時代のように捉えることができました。
主人公の少年が、コミュティーで行われる12歳の儀式で、レシーヴァー(記憶の器)という稀で、とても尊い仕事を与えられます。
そこを起点に、この物語の真髄に迫っていきます。
前半が浮き沈みのない流れになっていた理由も少しずつわかってきます。
人々は、薬のようなものを毎日摂取して、高ぶる感情が抑えられているのです。
だから、争いごともなく、淡々と日々を過ごす風景が描かれるのです。
しかし、それは歴史の中で、そういう選択をとった人類の結果だったのです。
そして、記憶は、コミュティーの中で一人だけが蓄えて、次のレシーヴァーに受け継いでいくのです。
その記憶を受け取る仕事を得ることになった主人公が、記憶を受け継ぎ、世界の真実を知り、葛藤を覚えていくのです。
主人公に記憶を注がれてから、世界を見る視点が二つに増えて、面白くなりました。
主人公から見る世界と、その他のキャラの視点から見る世界は、全く違うものだったのです。
言葉だけで、はっきりとここまで読み取れる不思議さ。そつない文章の巧さは、あとあとになってわかりました。
さも、それは、自分がレシーヴァーになってしまったかのように、本から記憶を注がれているかのような体験でもありました。
中盤から記憶を受け取るようになってから、盛り上がりを見せる作品ではあります。
それ以上に、不安が取り除かれた世界を垣間見たように、不安のない世界が本当に豊かなのか。
それを現代を生きる私に問いかけている作品にも感じられました。
ただし、文学作品であるがゆえに、はっきりとした結末が描かれていないところが、問いでもあると感じられました。
これは、まだ4部作の1作目。2作目にどんな問いが、物語が待っているのか楽しみです。
2作目「ギャザリング・ブルー」はこちら↓
3作目「メッセンジャー」はこちら↓
4作目「ある子ども」はこちら↓
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