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恩田陸さんは、私の好きな作家の一人。
恩田さんの作品の中でも、現実とファンタジーが融合した作品やミステリーテイストの作品が好きです。
しばらく恩田さんの作品から離れていて、いつか読もうと思っていた「蜜蜂と遠雷」。
ただ、音楽ものとあって、読もうか迷いもありましたが、読んで良かった。作中に出てくる楽曲は、ほぼ知りませんでした。しかし、文章からその雰囲気がつかみとれてしまいました。
ピアノコンクールがメインの舞台で、コンテストに出場する様々なコンテスタントや審査員、会場スタッフや出場者を見守る観客の視点で、物語が描かれています。
様々な視点で描かれる登場人物の気持ちや、音楽への姿勢、音楽との葛藤、それぞれの成長があって、最後まで楽しく読むことができました。
1次予選、2次予選、本選と続くピアノコンクール。話は、1次予選前から始まる。
消えた天才少女が、大学生になってからの復帰戦に挑む視点。
亡き伝説的ピアノ奏者の弟子は、ピアノを持っていない。
幼少期を日本で過ごし、一緒にピアノの習った少女と思い出に、来日した天才青年。
かつてプロを目指していた社会人男性の最後の挑戦。
注目を集めるコンテスタントを審査する審査員は、コンクールの威厳、自分の名誉、音楽界の評判と葛藤。
ステージ袖で見守るスタッフや調律師。
コンテスタントと関わることで、人物やその演奏曲に対するそれぞれの思いが、コンクールを通して1点に絞られていく。
持って生まれたピアノを演奏する手。それは、努力のたまもの。
天才といえど、悩みが尽きないことがまざまざと描かれていました。そこに親近感すら湧きました。
中には、理解しがたいほど自然体でいる人もいました。
様々な人が出場するコンクールで、演奏者たちは、もっといがみ合い、不幸を願っているのかと思っていました。
しかし、意地悪い思考を持った人たちは、いませんでした。むしろ、自分との演奏を比較、分析し、相手を賞賛することの方が多くありました。
もちろん、優勝を狙う強い気持ちはあるものの、自分の演奏ではなく、ステージ上で流れてくる音楽に心を動かす出場者たちの気持ちに感動しました。
音楽を聞くことはできない小説。しかし、音楽を聴いているようでした。
自分がホールの客席にいて、ステージ上のピアノから奏でられる音を自分の耳で聞いているような文章。
音楽モノである本作を読む前は、きっと専門用語が並べられていて、わからないだろうと勝手に思っていました。
全くそんなことはなく、専門用語があっても意味は捉えることができました。
演奏中の音楽は、文章のリズムで表され、かつ場面の語り部の気持ちとともに音楽の物語を見ているようでした。
まるで映画を頭の中に流されているかのようでもありました。
いっさい演奏されている曲を聞いたことがないにも関わらず、あたかも目の前から流れてくるかのようでした。
ちょっとしたイベントで演奏を聴くくらいの経験しかなく、コンクールの内情まで興味を持ったことがありませんでした。
本作が面白いところは、演奏者たちの葛藤を描くだけでなく、審査員や会場スタッフ、取材する者たちの視点でも描かれていることです。
普段、一般には知ることもできない世界や価値観を垣間見ることができました。
また、演奏者たちそれぞれの立場で考える楽曲の解釈や見解が、音楽を知らなくても興味が持て、その取り組む姿勢にうるっと涙する場面も多々ありました。
天才級の感覚ばかりモノを言うのかと思っていました。
様々な登場人物の視点を通して、誰しもが何かを持っていることを気づかせてくれる小説でもありました。
ピアノコンクールを通して、賞賛を得るだけでなく、身近かにいる人の気持ちを知り、自分の未熟さに気づくのです。
その成長がとても清々しく、読んでいて自分の心が洗われていくようでした。
挫折やあきらめを持っていても、ピアノや音楽を心から好きでいる気持ちに皆、正直でした。
そして、「本気」で好きなことを取り組んでいました。どこか「本気」を恥ずかしがる風潮のある日本で、全くそれを感じさせない音楽への姿勢。
ふと、自分はどうだろうと、思い気づかされたことでした。
ファンタジーやミステリー要素のない真っ向から音楽と向き合った恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」。
様々な登場人物視点で描かれるので、それぞれのピアノコンクールという舞台がどういうものかも知れ、音楽に対する情熱を強く感じ取れる作品でした。
音楽が読んでいる文字から聞こえてくるような文章にも引き込まれ、登場人物の成長にとても感動した小説でした。
2019年10月4日から、本作を原作した実写映画「蜜蜂と遠雷」が公開されました。
映画で、実際の音楽を聴いてみたいと思いました。
https://mitsubachi-enrai-movie.jp
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